2001年初出 TAGRO
講談社モーニングKCDX 全4巻
宇宙船の墓場と呼ばれる、サルガッソー宙域に迷い込んで出られなくなった主人公が、なぜか宙域中心部の古びたアパートで同じ漂流者たちと共同生活を送る羽目になる様子を描いたドタバタSFコメディ。
人類が爬虫類型宇宙人と宇宙規模で戦争してる時代、と言う舞台設定ですんで、大きく分類するならスペースオペラなんでしょうけど、そこに四畳半を持ち込んでくる発想の奇抜さが秀逸と言う他ないですね。
しかもその四畳半を管理してるのが、サルガッソー宙域を発生させている原因である「魔女」だという。
で、その魔女がなんだかすっとぼけた女性で。
気がついたらこの宙域にいて、迷い込んだ人を助けるようになっていた、と言う。
自分が問題の大元なんですけどね、どうすればこの異常な現象を止めることができるのか、皆目見当がついてない状態なんです。
それが本人の負い目になっていたりもする。
さて、改めて言うまでもありませんが、これ「宇宙空間でめぞん一刻」です。
作者本人も公言してますけど、私なんかは、よくぞまあこのシチュエーションであの手のラブコメをやろうと思ったことよな、とほとほと感心した次第でして。
換骨奪胎とはまさにこういう作品のことを言うわけで。
ラブコメとしてのおかしさ、ばかばかしさを損なわぬまま、SFなギミック、仕掛けをさりげなく忍ばせ、単に先達をなぞるだけに終わってないのが素晴らしい。
台詞回しのセンス、笑いへの貪欲さにかけては、めぞん一刻以上にポップでアナーキーかもしれない、と思ったり。
最終巻で俄然、シリアスな展開になってくるのもいい。
SFファンタジーなりの落とし所をきちんと設けようとしてるのが伝わってくるし、しいてはそれが、まつろわぬ異形の存在の生き方を問う形になってるのもお見事。
そりゃエンディングは感動の大団円ですよ。
ああ、良かったね、と素直に言いたくなるラブコメは久しぶり。
元々はGファンタジー誌上で連載され、エニックスから全5巻で発売された作品らしいんですが、この内容で「実は打ち切り予告されてた」ってのが信じられないですね。
5巻なんて数千部しか刷られなかったとか。
これが駄目だと言われたら、もうなにをやっていいかわからなくなりますよ、私だったら。
新装版発売を決めた講談社の英断には感謝しかない。
独特な丸まっちい絵柄に忌避感を感じる人も中にはいるかもしれませんが、断言しよう、そんなのは些末なことでしかないと。
SFコメディ2000年代の大収穫であり、見逃すにはもったいなさすぎる傑作。
おすすめですね。