アメリカ 2019
監督 ルパート・ワイアット
脚本 ルパート・ワイアット、エリカ・ビーニー

突如来襲した地球外生命体になすすべもなく地球の支配権を奪われた人類の、勝ち目のない抵抗を描いた近未来SF。
本作における主人公は非合法に活動する少人数のレジスタンス組織。
エイリアンの支配が確立して9年後が舞台となっており、もはや人間社会に大きな混乱はありません。
エイリアンの目的は地球資源の採掘。
その邪魔をしなければ、今まで通り暮らしていて良い、と認められていて、傀儡政権ながら合衆国政府も存在してます。
ただし、資源の採掘を許したままにしておけば、いつの日か地球は枯れ果てた死んだ星になることは火を見るより明らかであって。
つまり、緩慢なる自死を人類は強要されているわけです。
多くの人は近い将来そうなることをすでに諦めていて、今が良ければいい、とばかりエイリアンに付き従う行動をとっています。
エイリアンが来てくれたおかげで人類は戦争から開放された、と礼賛する連中まで居る始末。
なんせもうテクノロジーも武力も桁違いなんで。
それでも抵抗をやめない奴らなんて、言うなればカルト集団みたいなものなわけです。
さて、ここまで読んでもらえば理解していただけることと思いますが、これまで発表されてきた類似作と本作は全く違います。
多くの人はインデペンデンス・デイ(1996)や宇宙戦争(2005)あたりの侵略SFをイメージされるんじゃないか?と思うんですが、その手の派手な銃撃戦や軍事行動を描いた戦闘シーンは皆無。
どちらかといえば社会派スパイサスペンスに近い肌触り。
いかにエイリアンによる監視の目をくぐり抜けて、彼らに一矢報いるか、それを綿密な計画と大胆な行動力で現実のものにしようとするレジスタンスたちの、身を削る戦いをじりじりと描写。
なんせ警察はエイリアン側だし、すべての市民の行動を監視するために生体チップが全人類に埋め込まれてるんで。
ちょっとお出かけしただけで、すぐさま「怪しい」と駆けつけてくる警官がいたりするわけですよ。
どう考えても普通に無理だわこれ・・・と私なんか序盤で早くも匙投げそうになったほど。
それをね、レジスタンスたちは機知と機転で、際どくも難局をくぐり抜けていくわけですな。
ルール作りや舞台設定が緻密なおかげもあってか、とても空想物語とは思えないリアリズムがあって、ぐいぐいストーリーに引き込まれていくものがあったことは確か。
現実と地続きな緊張感、スリルがSFによって損なわれてないんですね。
特にレジスタンスのトップが誰だったのか、暴かれるクライマックスのシーンなんて「あっ」と声が漏れます。
なんだこの出来が良すぎる謎明かしは!?ってなもの。
そこからの展開は怒涛。
断片的なシーンが全て意味を持ち出すのと同時に、物語はがらりと色を変え、衝撃的なエンディングへと一気にストーリーは加速する。
まさかこの手のSFで、立場に翻弄される大人の痛々しい恋愛(思慕?)感情を最後に見せつけられるとは思ってもみなかったですよ、私は。
それだけで傑作認定してもよいほど。
絶対的な敵として立ちはだかるのはもちろんエイリアンなんですが、人の敵は人、と位置づけた点が秀逸だったと思いますね。
そして言うまでもなくこの物語は現実世界のカリカチュア。
私は中国共産党の圧力にさらされる香港の若者の姿を真っ先に思い浮かべたりした。
SF的なガジェットが小出しに登場してくるのもSFファンとしちゃあ喜ばしいかぎり。
地味だ、と感じる人もいるかも知れませんが、シナリオの出来の良さ、占領下のシカゴという世界観を壊さぬ配慮が感じられる映像は、大作に負けず劣らず一級品だったように思います。
ド派手なだけがSFじゃない。
マーベルやDCもいいんですけど、こういう作品も見ておいたほうがいい、と思った力作でしたね。