ルクセンブルグ/フランス/ベルギー/イスラエル 2018
監督 サメフ・ゾアビ
脚本 サメフ・ゾアビ、ダン・クラインマン
イスラエルで大人気のテレビドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」の脚本家に抜擢された主人公の予期せぬドタバタを描いたコメディ。
さて、なぜ主人公がドタバタしちゃってるのかというと、全くの素人がいきなりストーリーの舵取りを任されちゃったから、なんですね。
しかもその理由が「ヘブライ語ができるから」という適当なもの。
そこにちょっかいを出してくるのが、エルサレムの検問所で働く軍司令官のアッシ。
主人公サラームはテレビ局に通うために、必ず検問所を通らなければならない。
偶然からサラームが脚本家であることを知ったアッシは、ドラマの展開にあれこれ口出ししてくるようになる。
アッシの奥さんや家族がドラマの大ファンなんですよね。
またサラームも昨日までド素人だったもんだから、アッシの助言に耳を傾けちゃうんです。
ただ問題は、イスラエルとパレスチナの長年の対立が、現実のみならずドラマの内容にまで影を落としてること。
なんせテレビドラマ自体が、テルアビブを舞台としたスパイものメロドラマですんで。
「アラブとユダヤが手を取り合うなんてありえない!」とか、真顔で主張しちゃうんですよね、アッシ。
だから創作だって!と諌めたいところですが、そこは日本人には理解できない根深い感情のもつれがある、ってことなんでしょう。
アッシと制作チームの間で板挟みになるサラームは、いかにしてドラマを成功に導くのか?がおおむねの見どころ。
物語の骨子としてあるのは、サラームが一人前の脚本家として変わっていく様子を成長物語として描いていくこと。
中東の民族問題が絡んでくると色々と重苦しくなりそうですが、そこは象徴的です。
サラームの目線は中立的で、監督自身も紛争の背景やイデオロギーを掘り下げて言及するつもりはありません。
シナリオ進行の「障害」として道具立てしてみました、ってな程度。
なので、サクサク見れるのは確かです。
むしろ主義主張に固執するアッシをおちょくってるようにすら見える。
秀逸だったのは、コメディの体を最後まで崩さぬままサラームを少しづつ化けさせていった作劇でしょうね。
これね、意外にもほのかに感動的だったりします。
なんだかもう、いつのまにやらすっかり立派になって・・・と目を細めてしまう感じ。
各国の映画祭で話題になったのも納得できますね。
あとはエンディングのウルトラCをどう受け止めるか、でしょうね。
無茶苦茶やがな!とつっこむ人ももちろんいるでしょうし、なんともまあ微笑ましい、とニヤついてしまう人もいるでしょう。
ちなみに私は、これはこれでいいんじゃないか、と思ってるクチ。
傑作!というわけでもないとは思いますが、テレビドラマ制作に中東問題を背景として「軍人」という異物を放り込む、というアイディアが独特でした。
いつか全部がうまくいく日が来るんじゃないか?と信じたくなる多幸感があるのがコメディ映画として良いと思いますね。
三谷幸喜の映画とか好きな人ははまりそう。