汚名

アメリカ 1949
監督 アルフレッド・ヒッチコック
脚本 ベン・ヘクト

メロドラマ仕立てのスパイもの。

ド素人の女にアメリカのスパイである男が、潜入捜査を強いるお話。

普通なら「なんで私がそんなことしなきゃいけないの!」って揉めるところですが、女、アメリカのスパイに惚れちゃってるんですよね。

あなたのためなら・・・みたいな感じで容疑者の家に入り込むわけです。

女を惚れさせてしまうテクニックそのものがスパイの手管なのかもしれませんが、物語の焦点は、スパイ自身の「女に対する気持ちはどうなのか?」はっきりさせないところにあります。

最後まで観客はもやもやするわけですね。

いいのか?女、結構危険だぞ?身バレしそうだぞ?助けなくていいのか?おい、お前!みたいな。

まー「引き」が上手です。

ラブロマンスの王道を行く手口。

ヒッチコック先生にしちゃあ、えらく甘ーい内容だなあ、と。

ま、それはそれで別にいいんですけどね、私が少し残念だったのは、女がスパイに惚れてしまうまでのプロセスがいささか駆け足気味だったこと。

もう熱烈に恋しちゃってるんですけどね、そうも好きになる理由がちゃんと描かれてないものだから、身の危険を冒してまで男のために尽くす女の行動に説得力が見いだせないんですよね。

物語中盤では、よく知らない男と婚姻関係を・・・みたいなところにまで話が及ぶんです。

そこまでやるか?みたいな。

現在の価値基準に照らし合わせて判断はできないんでしょうけどね。

態度のはっきりしない男に対するあてつけにしたって、度がすぎてるように思うんです。

あと、スパイの世界を描くにあたって、細かなデティールにこだわってないんでね、なんだか現実味に欠ける感じがするのもマイナス点。

もう少し小道具や、男の立ち居振る舞いに気を配っても良かったと思うんですよ、なんせ秘密組織ですし。

割とそのあたりがルーズなんですよね。

主題はそこにないから、と考えていたのかもしれませんけどね。

ただ私の場合、そのせいでどこか集中しきれないものがあったのは確か。

俄然盛り上がってくるのはエンディング間近。

このまま絵空事っぽい調子で終わるのかなあ、と思ってたらきちんと見せ場を用意してくるあたり、さすがは先生。

階段を降りてくるシーンの緊張感ときたら一気に目も覚めんばかり。

ラストは割とあっけないんですけどね、最後の最後にすべて集約させるシナリオは見事だったと思いますね。

メロドラマ以上の何かがあるわけじゃあないんですけど、爪痕残していったな、みたいな。

佳作でしょうか。

ヒッチコックファンなら楽しめるのでは。

あ、そうそう、当時の規制をかいくぐるために監督が発案したキスシーンはあまりに熱烈で、今見ても恥ずかしくなってきますよ。

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