ジョーカー

アメリカ 2019
監督 トッド・フィリップス
脚本 トッド・フィリップス、スコット・シルバー

ジョーカー

しかしまあ、それにしてもDCはとんでもない映画をラインナップに加えたものだ、と驚きましたね。

これ、ジャスティス・リーグ(2017)とかワンダー・ウーマン(2017)見る感覚で劇場行ったら腰抜かしますよ、マジで。

はっきり言って落ち込む。

もう閉塞感というか、やるせなさがメーター振り切ってて、あれ?なんの映画見てるんだっけ?とふいに我に返ること請け合い。

いくらマーベルに差をつけられっぱなしだからといって、ここまでやらなくてもいいだろ、って思ったほど。

私はDCの最高傑作をダーク・ナイト(2008)だと思ってますが、その頂にすら肉薄する勢いなのは確かですね。

方法論はダーク・ナイトに近いんです。

仮想の街ゴッサムシティを舞台としたファンタジーに、現実味の強いストーリーを展開する。

描かれているのはバットマンのライバル、ジョーカー誕生秘話ですが、これを額面どおり受け止める人はまず居ないでしょう。

物語に反映されているのは、現在のアメリカ社会が直面する痛ましい現実。

主人公のジョーカーですが、母子家庭に育つ精神障害者です。

日頃から服薬が欠かせないし、緊張が続くと笑いだしてしまう、という持病を持つ。

本人、いたっておとなしい人物なんですが、なんの後ろ盾もない入院歴のある人物が働ける場所は限られていて。

慎ましやかに生きてるんですけどね、職場や世間はそんな彼を「普通とは違う、どこか不気味だ」と迫害するんですね。

もちろん行政はなにもしてくれない。

予算カットを名目に、福祉サービスすら打ち切る始末。

もうね、ケン・ローチのわたしはダニエル・ブレイク(2016)か、って話ですよ。

普通に生きたくても生きられない生々しい現実がそこにはある。

で、これが所詮映画だから、と軽く流せない真実であることを我々大人は知っている。

滔々と訴えかけられるのは、格差社会のひずみにあえぐ最下層の人間にすら顧みられない人間はいったいどうしたらいい?との叫び。

また、主演のホアキン・フェニックスがそんなやるせなさを迫真の演技で表現するんですよ。

もー笑い声が心底怖いです、それこそIT(2017)の殺人ピエロですら比較にならんレベル。

狂気漂うとはまさにこのこと。

なにが絶望的かってね、どうすればこの状況を打開できるのか、全く想像できないことにあります。

自死以外の選択があるんだろうか、とすら思う。

結果、ジョーカーというモンスターが生まれたからといって、誰がこれを責められるんだろう、という気にすらなる。

エンディング、圧巻です。

シナリオがすごかったのは、ジョーカーは抑圧された人々の代弁者、法を超えた悪のヒーローというわけではなく、アイコンに過ぎぬ、と諭したこと。

つまり、ジョーカーの存在が特別なのではなくて、誰もが第二第三のジョーカーとして立脚せしめる状態にあるのが現在の社会なんだよ、と語りかけるんですよね、作品は。

甘ったるいヒロイズムなんざ微塵もなし。

もはやバットマンの立場なし。

どうするんだブルース・ウェインと、あたしゃ他人事ながら慌てたりもした。

社会派ファンタジーという、比較対象の見あたらない大作でしょうね。

劇中でチャップリンのモダンタイムス(1936)のワンシーンを流す構成も心憎い。

アメコミの皮をかぶった狼ですね。

実は中年以上の人たちのための映画という気が私はしてます。

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