フランス 2002
監督、脚本 ギャスパー・ノエ

奇才とも呼ばれるギャスパー・ノエが本領を発揮してきたのはこの映画からでしょうね。
トラウマ映画だとかグロ映画だとか、トランスムービーだとか色んな評を目にしますが、似たようなことをやってる人を思いつかない、という意味では前衛的と言えるかもしれません。
前衛をどう受け止めるかで伝える言葉も変わってくるわけで。
特徴的なのはカメラワーク。
一見、POVなのかな?と思うんです。
いや待て、これ普通のPOVじゃないぞ?と気づくのは見始めて数分経過したのち。
手ブレ全開の落ち着きの無さは既出の作品と変わらないんですが、見てる限りでは延々ワンカットなんですよね、この映画。
2015年に140分ワンカットで撮影した映画「ヴィクトリア」が発表されて話題になりましたが、じゃあ、それの先駆けだったのか?というと、それも実は微妙に違ったりしまして。
カメラがね、ありえない方向へと縦横無尽に動き回るんですよ。
360度回転するなんてザラ。
ビルの壁面を這うように駆け上がったかと思えば、スクリュー気味に室内へと飛び込んできたりとか普通にやらかしてて、えっ、ドローンで撮影してるの?と疑いたくなるほどでして。
もうね、わけがわかりません。
なんでここまで極端なストップ&ゴーを重力無視でやる必要が?と目が点。
遊園地の進化系アトラクションかよ!って。
酔うわ!
後から調べてみたところによると、CGを駆使して連続性を保ち、編集でワンカットであるように見せかけたらしいんですが、そこに執着するってのがどうにも普通の発想じゃない。
この作品、時間が逆行していくシナリオですんでね、過去に遡っていくシークエンスをスムーズにつなぎ合わせるために発案したんじゃないか?と私は想像するんですが、それにしたって異様極まりない。
だってシンプルに疲れるんですよ、あまりに可変性が高すぎて。
これ、劇場で見てた人は大変だったと思う。
いきなり荒波に揉まれる小舟へと放り込まれたようなもんですよ。
まともな感覚なら公開する前に絶対に躊躇しますよ。
こんなの最後まで見るやつ居ねえぞ、みたいな。
でも発表しちゃうんですよね、ギャスパー・ノエは。
で、最大の疑問点がですね、そこまでして映像に工夫をこらし、時間を逆行させた物語そのものが、よくあるリベンジものでしかなかったこと。
こういう形でしか表現できない内容では決してないんですよね。
もう完全に監督の実験場と化してます。
ついてこれる人だけついてきて、の一大パノラマみたいなもの。
そりゃ評価も乱れるわ、と思いますね。
私が思うに、この映画のたちが悪いのは、独りよがりにすぎない、とぶった切れるだけの陳腐さ、幼稚さを安易に指摘できないことでしょうね。
滅茶苦茶こだわって作ってるのが伝わってきますしね。
見れる人だけで楽しむべき映画だと思います。
もー、そうとしか言えない。
あと、余談ですが、なぜかこの作品、男性器がボカシなしでバンバン映ります。
主演のヴァンサン・カッセルのイチモツまでモロに映る。
99分の上映時間で、少なくとも各種5回は洋物の魔羅がでろん、とモロ映しになる。
1ミリも楽しくない。
もう、ほんとに何にこだわってるんだか、この人は・・・。
しかし、こういうことが許される環境にある、ってのがギャスパー・ノエ最大の凄さかもしれませんね。