2003年初出 山口貴由/南條範夫
秋田書店チャンピオンコミックスRED 1~10巻(全15巻)
山口貴由は正直好きな漫画家ではないんです。
昔、リアルタイムで覚悟のススメ(1994~)を読んでいたんですが「荒廃した未来を舞台としたヒーローアクション」という劣化した少年ジャンプのような独創性のなさにうんざりしてたし、右翼的イデオロギーをファッション的に取り入れた作風も嫌悪感があって。
戦前の国威発揚を意図したプロパガンダ映画かよ、って。
やたらと陰惨でグロな描写も一体そこから何を読みとらせたいのか、いまだにわからなかったりもする。
劇画村塾出身であることが影響してるのかもしれませんが、方法論は身につけているにせよ、使いこなし方が賢くない、と私は思ってて。
そのままずっと同じ路線でやってるなら、作品を手にとるようなことはまずなかった、と思うんです。
ところが今回、なにをどう思ったのか南條範夫の「駿河城御前試合」を漫画化する、という。
駿河城御前試合といえば時代劇小説の名作ですよ。
大御所、平田弘史がかつて漫画化したほどの大傑作。
俄然興味が湧いてきて、おそるおそるページをめくってみたんですが、これが意外や意外、想像してた以上に面白い。
原作通り物語は進んでないんですけどね、作者の脚色がびっくりするぐらい南條範夫の世界観にはまってるんですよね。
うまく言えないんですけど、山口貴由の嗜好、偏向が武家社会の理不尽さを描く上で妙な適性を発揮してるというか。
不可解な耽美的美意識もこの作品に限っては、美醜の対比を恥の文化に絡めて描くのに、有効に機能していると思いましたね。
残酷劇との相性の良さが半端じゃない。
なんだかもう70年代の、タブー度外視でひたすら挑戦的だった漫画を読んでるような気分になるんです。
それでいて、虎眼をアルツハイマーに設定する等、現代的な考察を編み込んでるのもお見事。
なるほど、時代劇向きの作家であったか、などと、初めてその作家性に合点がいった次第。
誤解を恐れずに言うなら、本作、バカボンド(1998~)にも勝るとも劣らぬ剣豪の情念が伝わってくる作品だと思います。
あとはもう少し女を描くのが上手になれば一気にメジャーの仲間入りも不可能ではない、と思うんですが、それは今後の課題か。
グロいし、陰惨なんで、好みはわかれるかもしれませんが、決して多くはない時代劇漫画の0年代における収穫だと私は思いますね。
ふくしま政美っぽい男の裸の描き方が、変に誤解されなければ漫画史に名を残す一作になるんじゃないでしょうか。