2007年初出 木々津克久
秋田書店チャンピオンコミックス 全2巻
見えない、聞こえない、しゃべれない、という三重苦を背負った少女、ヘレンの日常を描いたファンタジー。
で、なにがファンタジーかという話なんですが、タイトルにもあるとおり、ささやかなESPを彼女は使えるから、なんですね。
超能力と盲導犬の存在のおかげでなんとか人並みの生活を送れる状態にヘレンはあるわけです。
そんなヘレンの毎日にはいろんな事件が次々と起こり・・・って感じなんですけど、しかしまあ、よくぞこの企画が通ったものだな、と思いますね。
秋田書店の社風ゆえ、だったのかもしれませんが、コンプライアンスに厳しい昨今、障害者はエスパーだった!なんて、プロット聞いただけで編集者は裸足で逃げ出しそう。
だってアニメ化もされたかの大ヒット作、聲の形(2013~)ですら最初は掲載するか否か、もめたらしいですから。
関係機関や弁護士と幾度も協議を重ねてようやく連載開始ですからね。
三重苦でエスパーとか「ふざけるな!」と激高する人がいても全然おかしくない。
これで派手なバトルとかアクションに舵を切らなかったのは賢明だった、と思いますね。
というか、なにかひとつ間違えただけで漫画家生命の危機に追いやられかねない題材ですよね、これって。
作者本人がどう考えていたのかはわかりませんが、どこかブレーキを踏む気持ちもあったのか、障害とどう向き合っていくのかをあまり掘り下げて描写してない節はあります。
木々津克久らしい毒や黒さは散見されるんですが、それよりも心優しさ、性善性で生暖かく包んでみました、みたいな。
これを「当たり障りがない」と言ってしまうのは厳しすぎる、とは思うんです。
けれど、この内容ではあえて三重苦を素材として挑まねばならないほどのテーマは見えてこない。
ヘレンって、多分ヘレン・ケラーから拝借してると思うんですけどね、そのネーミングも安直。
編集部を通らなかった話もひょっとしたらあったのかもしれませんが、私はおとぎ話レベルで終わっちゃってる気がしますね。
アイディアや指向性は作者らしいと思うんですが、未消化なまま発表しちゃったような印象も。
駄目だとはいいませんが、SFファンタジーの俎上で料理するには難易度が高すぎたか、という気がします。