2009年初出 伊図透
双葉社アクションコミックス 1~2巻(全3巻)
現在エンターブレインから新装版が上、下巻で発売になってますが、私が読んだのは旧双葉社版の1、2巻。
ミツバチのキス(2009~)がなんとなく尻すぼみで終わった後の新刊だったんで「ミツバチより描きたいものがあるの?!」と期待した一作だったんですが、実際読んでみたら私の考えていたような内容とは大きくかけ離れててがっくりきた記憶がありますね。
もともと本作はちばてつや賞を受賞したBLUE SKY BLUE(2005)という短編が下敷きになってるらしいんで、きっとアイディアそのものはミツバチのキスより古くからあったんでしょう。
でも、当時はそんなこと知らなかったものだから「ああ、伊図透はSFから離れちゃうのか~」と失望。
全然そんなことはなかったんですけどね。
で、肝心の内容なんですが「もうこれ児童文学じゃん!」と言いたくなるような、小学生の日常の描いた学園ものでして。
母子家庭に育つ主人公順基と、ハーフで訳ありな家庭に育ってるっぽい偏屈者エトが少しづつ友情を育んでいく様子を瑞々しい筆致で綴ってます。
ドラマ作りに関しては傑出してる、と言っていいでしょうね。
昨日今日の新人がおいそれと描けるような物語じゃない。
手がつけられないほどうまい。
ちゃんと小学生の目線にまで作者が降りてきていて、小学生のいらだちや悩みを「忘れてしまってるのは我々大人だよ」とばかり、切々と訴えかけてくるんですよね。
これ、掲載誌が違えば評価がまるで違ったんじゃないか、と思います。
一定の支持を得て、大長編になったのでは、と思ったり。
ただ、私も含めてファンはやっぱりミツバチを期待してたと思うんで。
接触テレパスのお話からいきなり児童文学に駒を進められてもね、ついていけないわけですよ。
今、改めて読み返すなら、やってることは同じだ、と思えるんですけどね、当時は「違う場所に行ってしまった」と感じてしまいましたねえ。
伊図透という稀有な漫画家の才覚に触れる意味では手にとってみるのもありじゃないでしょうか。
好みは別として、ああ、この人は本物の描き手だ、と実感できることと思います。