1991年初出 松本大洋
小学館 ビッグコミックス 全3巻

読売ジャイアンツに入団することを夢見る30歳の父親と、そんな父親を虚仮にする現実的で利口な息子を描いたホームドラマ。
じゃりン子チエ(1978~)と似たプロット、と言っていいと思います。
働きもせず、地元の草野球チームでおだてられ、遊び呆ける父親を、大人以上に目端の利く息子がたしなめ、コントロールするという逆転の構図が招くおかしさは、ある種の喜劇の鉄板と言っていいでしょうね。
ただこの作品がじゃりン子チエと違うのは、そんなちゃらんぽらんな父親に、いつしか息子は影響されていくという展開。
脇目も振らず学業に邁進し、エリートコースを突き進むのが果たして正しいのか?と息子は懐疑的になるんですね。
表立ってはそんなそぶりをみせないんですけど。
まあ、わかりやすいといえばわかりやすい反骨、アナーキニズムではあります。
で、私がちょっとひっかかるのは、最後までほとんど父親の現実についてなにも描かれていないこと。
例えば働きもせずどうやって生計をたてているのか?とか、なぜ嫁と別居してるのか?とか。
なので、息子が父親に惹かれていく理由が肉親の情以外に見いだせない状態なんです。
もともとひどく嫌っていたのに、肉親の情だけでここまで変わっちゃうものなのか?という疑問はどうしたって湧いてくる。
なんとなく独特の絵柄とテンポだけで乗り切っちゃってるなあ、という感じがしなくもない。
どこかファンタジックなんですね。
それはエンディングにも言えていて。
いやいや、そうじゃないかな?とは思ってたけど、どう考えてもそれはないだろ・・・というとてもドリーミーなオチが最後には待ち構えてます。
感動的なんですけどね、地に足がつかなさすぎてて困惑しちゃう人も居るんじゃないかと思ったり。
もう少し登場人物の背景なり、デティールなりを詰めてくれてたらまた違ったかと思うんですが、これが松本大洋だと言われればそれまで。
作家性だけで最後まで押し通した一作、って感じですね。
嫌いではないですが、熱中するほどではないってのが正直なところ。