九番目の男

1983年初出 高橋三千綱/かざま鋭二
双葉社アクションコミックス 全8巻

かざま鋭二とくれば「風の大地」なわけですが、個人的には漫画アクションを長らくスポーツ漫画で支えた功労者との印象が強いですね。

とか言いながらきちんと読んだことはこれまでなかったんですけど。

このままではいかん、ということで意を決して手にとったのが本作だったわけですが、なるほどこういう漫画を描く人だったか、と。

ながやす巧と同系統の線の細い精緻な作画は、さすがに貸本時代から活躍してる人なだけはある、と納得のクオリティですし、笑いもシリアスな場面も硬軟自在に描き分けるセンスは最近の素人モドキな漫画家じゃ到底真似できないまさにプロの仕事。

やっぱり劇画の最前線で活躍してきた人はみんなすごいなあ、と素直に感心ですね。

ただね、内容そのものに関して言及するならさすがに古い、ってのはどうしたってある。

これは原作である高橋三千綱のシナリオのせい、と考えてほぼ間違いないでしょう。

基本、ボクシング漫画なんですけどね、主人公である橋下健一の人間性や恋の行方を描写することにページを割きがちなんですね。

ボクサーとして稀有な才能の持ち主であることに関して、あまり多くの見せ場が用意されてない。

あしたのジョーにおける力石徹みたいな存在を序盤から登場させる等、セオリーには忠実なんですが、それがなぜだか物語のヒートアップにつながらない。

まあ、83年といえばジョーはおろか、がんばれ元気(1976~)や、ボクシングそのものをヒロイズムで解体しちゃったリングにかけろ(1977~)が発表された後ですから、どうしたって二番煎じ、三番煎じな印象はまぬがれなかったでしょう。

そこを補完すべく、青年マンガならではのドラマ性だったとは思うんですが、これもねえ、男尊女卑がすぎるというか、男はどいつもこいつも野獣なのかよ、といいたくなるような泥臭さで、いかにも昭和でして。

80年代という軽佻浮薄な時代を鑑みるなら、むしろ70年代を引きずってるとさえ言えるかもしれない。

今、登場人物たちの価値観やイデオロギーに同調できる人はものすごく少ないでしょうね。

タフネス大地(1978~)の主人公と橋下健一のすっとぼけぶりが似てるのも気になった。

80年代という時代にすり寄った、ということなのかもしれませんけど。

思い入れのある当時の読者のための漫画でしょうね。

質の高さは認めますが、時代の風雪にさらされ、現代においてさえ色褪せない何かは希薄な一作であるように思います。

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