アメリカ 2018
監督、脚本 アダム・マッケイ
90年代後半、ブッシュ大統領政権下で副大統領を努めたディック・チェイニーの「史上最凶の副大統領」と呼ばれた策動家ぶりを描く暴露ドラマ。
ブラックユーモアだとかコメディだとか言われてますが、はっきり言って笑えません。
いやもうね、現実とリンクしすぎててしゃれにならんというか。
笑えねえよ、これ、って。
むしろ怖いです。
世界をリードする超大国アメリカでこんなことが起きてたのか、と思うと身の毛もよだつ。
浅学なものでディック・チェイニーのことをまるで知らなかった私なんですが、この映画を見て色んな疑問が氷解しましたね。
個人的な意見ですが、ブッシュ(41代アメリカ大統領)の息子(43代アメリカ大統領)があれだけのことをしでかせるはずがない、と私は昔から思ってて。
ちなみに作中でもチェイニーの嫁に「残念な子」とか言われてたりするんですけど。
うん、そこだけは爆笑した。
ウィットに飛んでるよ、リン・チェイニー。
見てて、やっぱり居たのか、裏で糸を引いてるやつが、って感じでしたね。
無能な小心者が権力を握ると、一体どのようなことが起こるのか、饒舌に語られすぎてて私はほんと目眩がした。
創作じゃないですからね。
もちろん演出や脚色はあるんでしょうけど、大量破壊兵器はあると宣言し、湾岸戦争を指揮したのも事実なら、アメリカ国民すべてのメール、通話記録をチェックするようにしたのもこのおっさんで、真実ですから。
しかも大統領にすべての権力が集中するよう法制度を変えたりもしてるんだから穏やかじゃない。
ちょっと待て、これ独裁国家化を一直線に突き進んでるじゃないかよ、って。
中国か!って話だ。
映画そのものはドキュメンタリータッチというか、再現フィルムっぽい印象もあって、端折らずにもう少しじっくり描写してほしいと感じた部分もあったんですけどね、それでも実話であることのインパクトがすべてを上回ってると言っていいでしょう。
ここまであけすけに全部暴露して本人から訴えられやしないか?とこっちがヒヤヒヤする作品なんてそうそうない。
さらに私が秀逸だと思ったのは、最後にチェイニーのインタビューシーンを持ってきた構成。
チェイニーは真顔で断言するんですよ。
「私は一切謝罪しないよ。なぜなら私は国民が望む通りのことをしただけだからだ。」
エンドロールを眺めながら考えさせられます。
チェイニーという怪物を作り上げたのははたして誰だったのか?
本人の資質や理念なき政治姿勢にもちろん問題はあったんでしょうが、大統領になりたいわけではないチェイニーをここまで暴走させた火種はどこにあったのか?
ふと、衆愚政治、なんて言葉が脳裏をよぎりました。
同盟国日本に暮らす我々だからこそ、見て損はない一作だと思いますね。
あと、主演のクリスチャン・ベール、無茶しすぎ。
役作りのために20キロ増量って・・・。
いつか体こわずぞ、ほんとに。