韓国/日本 2004
監督、脚本 キム・ギドク
独占欲の強い夫に苦しめられる人妻ソナと、謎の青年テソクの秘めたる関係を描いた奇妙なラブロマンス。
さて、主人公テソクなんですが、相当な変わり者でして。
自分の持ち物はバイクだけ。
住人が留守中の家を探し出しては、ピッキングで侵入し、主の居ない部屋で数日を過ごす。
金銭目的な空き巣稼業、というわけじゃないんです。
どうやらその日その日の宿を確保できればいい、という考えっぽい。
寝る場所を提供してくれたお礼にこっそり壊れてる家電を直したり、洗濯物を畳んだりする。
ある日偶然侵入したのがソナの自宅。
誰も居ない、と思ったらばったり鉢合わせ、というパターン。
そこから二人はなぜか行動をともにするんですね。
どうしてそんなおかしな状況になっちゃうのか、詳しい説明は一切ありません。
なんせこの映画、ソナもテソクも一切セリフがない。
もちろんある程度の想像がつくようにはなってるんですが、 私は2人が「ここではないどこか」を同じく渇望していた、と解釈。
そこからの流れはほとんど明日なきロードムービー状態。
なんと2人して他人の家を泊まり歩く生活を始めちゃうんです。
しかしまあ、すげえシナリオだな、と。
こんな独特なプロットを着想できるのはギドクならではだ、と感心。
刹那を描く、憂いを帯びた感傷にぐいぐい惹き込まれていく私。
将来的に、とか建設的に、とか一切排除されてるんですよね。
ただ生を全うすることだけで時間が消費されていく。
浮かび上がってくるのはモラルや善悪の外側にある諦念。
もちろんそんな生活が長続きするはずもなくて。
やがて破局を迎えるのは誰もが想像できるセオリー。
はて、いったいギドクはこの物語をどう着地させるつもりなんだろうと。
終盤における私の興味はその一点。
でね、肝心のオチなんですけどね、これだけ私を夢中にさせておきながら、いささか亜空間へと変則跳躍しちゃってまして。
いや、ちょっと待て、と。
忍者じゃねえんだから、と。
正直、唖然です。
ま、体重計の目盛りがゼロであることから、ある仮説が成り立たなくもないんですけどね、そんなトラップを仕掛けるような監督だとは私にはどうしても思えなくて。
そもそもそういう方向へ物語を落とし込みたいのなら、刑務所のシーンは全く必要なくなりますし。
単純にギドクの考える愛の形が神性を帯びた、と考えるのが正しいのではと思うんですが、いやこれ悪い意味でマンガだから、って。
ぶっちゃけ、ずっこけましたね。
最後の最後で笑わせにかかってどうする、と。
そんなつもりは監督にはないんでしょうけどね。
うーん、ヘンテコ映画の一言ですね。
主役二人のセリフを排除する実験的な作風が見事に活きた傑作、と書きたかったんですけどね、まさかのオチに途中までの評価も吹き飛んでしまった感じです。
これもまた韓国ならでは、か。
記憶には残りそうですけどね、変すぎて。