1990年初出 板橋しゅうほう
潮出版社 全4巻

生態系の破壊された地球から脱出し、多くの人が地球外周軌道上に存在する巨大スペースコロニーに移り住むようになった22世紀の未来、スリック・スター(人工星)マイダスで暮らす探偵稼業の主人公、錬児クォーターマンの活躍を描いたSFアクション。
作者がどう考えていたのかはわからないんですが、集大成的な印象を私は受けましたね。
プロットの雛形となっているのはおそらくDAVID。
また、主人公が探偵稼業、というのは多くの短編及びHey!ギャモンのようですし。
シルベスターあたりも焼き直したかったのかな。
いわゆる宇宙を舞台にした未来SFを、制約や誌風にとらわれず、今度こそ最後まできっちり描きあげたい、という意欲が私にはガンガン伝わってきた。
SFファンタジーじゃないんですね、あくまで未来SF。
SFファンタジーはセブンブリッジにて、その頂点を極めてますから。
やり残してること、といえばDAVIDの系譜。
それを思う存分、自由にやらせてくれるのは、この時代、おそらくコミックトム(廃刊)だけだったんでしょうね。
それが証拠にこれまでになくアクションシーンが少ない。
あえて読者のご機嫌を伺うようなことを全くしてない。
その代わりに注力されているのがシナリオの構築性。
いやもうね、板橋しゅうほう過去最高峰と言っていいでしょうね。
恐ろしく緻密です。
一切の矛盾、及び齟齬、ヌケなし。
ラストまで、編み込まれた1枚のタペストリーのように、物語がほころびなく進んでいく。
それでいて、どんでん返しに次ぐどんでん返しで一切の予断を許さない、ときた。
最後の最後まで一切手綱を緩めないんですよ。
まだ裏があったのか、みたいな。
もはや食傷にも近い執拗さで、徹底的にこだわりぬいてるのは間違いない。
これが面白くないわけがなくて。
素晴らしかったのは、それぞれのキャラクターが織りなすドラマすらも、これまでになく多感でエモーショナルだったこと。
大人に訴えかける情動があるんですね。
特に終盤の展開なんて「なんだこれ、海外の映画かよ!」とあたしゃマジで驚いた。
作画がさらに精緻さを増して、アメコミの影響下から別のステージへと発とうとしてるのも感服する他ない。
そりゃね、はっと目を引く派手さはないかもしれません。
ケレン味やハッタリも必要最小限って感じですし、子供は全く相手にしてない上、奇抜なデザインで虚仮威しすることもありませんしね。
しかしながら、これこそが作者にしか描けない未来SFだと私は思いますね。
先進的だったガジェットや豊かな物語性、オリジナリティの高さ、その全てがここには詰まってる。
板橋しゅうほうには自由にやらせろ、それが名作を量産する唯一の方程式だ、と当時は心底思った。
あまり話題になってない一作ですが、SFファンならぜひ読んでほしい傑作だと思います。
この作品の後に非SF系の「ヘクトパスカルズ」という作品を発表して作者は表舞台から消えてしまいますが、80年代~90年代のSF漫画を語る上で決してスルーすることは許されない漫画家であると私は今も確信してます。