彼方のアストラ

2016年初出 篠原健太
集英社ジャンプコミックス+ 全5巻

宇宙時代を迎えた未来、他天体で遭難した高校生9人が偶然手に入れた宇宙船を操り、はるか5012光年の彼方から帰還するための旅を描いたSF大作。

いやー驚きました。

今どきここまで真正面から宇宙を舞台に冒険SFをやらかしてくれるとは。

もう、完全に途絶してたと思うんですよね、漫画の世界においてこの手のSFって。

80年代~90年代の隆盛を最後に、最近じゃ星野之宣あたりのビッグネームしか宇宙を題材にしてなかったんじゃないか?と思います。

ウェブ連載とは言え、編集部は英断だったと思うし、作者もよくぞ果敢にチャレンジした。

そこはSFファンとして喜ばしいし、素直に喝采を送りたいですね。

内容も実によく出来てる。

ジュール・ベルヌの十五少年漂流記の宇宙版だ、などと言われたりしてますが、私が読んでて思い出したのは日本サンライズのアニメ、銀河漂流バイファム(1983~84)だったりします。

換骨奪胎の手法は似てますよね。

宇宙船という密室空間で、ミステリ的な味付けを施したシナリオライティングは萩尾望都の11人いる!にも近いかもしれません。

なんといっても優秀だったのは、それら過去作の気風を漂わせながらも、二転三転する仰天のからくりを物語の本筋としてしっかり用意してみせたことでしょうね。

ひとつひとつを手にとって見るならオチそのものはたいしたことないんです。

SFの世界じゃあ、割とよく見聞きする発想だったり、落とし所だったり。

けれど、メインのストーリーとは別に、9人の少年少女たちの成長ドラマであったり、前記したミステリ的展開であったり、旅の途中で立ち寄る見知らぬ惑星での冒険譚であったりと、とにかく密度の濃さが半端じゃなくて。

特にLGBTにまで言及しようかとする展開には私、腰を抜かしました。

ヴォリューミーといえば、たった5巻でこれほどの大盛りは類を見ないじゃないかと。

割とよくあったパターンだよね、みたいな揶揄が入り込む隙がないんですよね。

しかもそれでいて破綻がない。

物語の設計図面の緻密さには舌を巻かんばかりですね。

まあ、少年漫画特有のノリが辛いとか、友情と努力の方程式に辟易するとか、大人目線で読むとしんどい部分もあるんですけどね、ここまでやってくれたら文句はありません。

唯一気になったのは、コメディ出自なのが災いしてか、ドラマチックな場面の演出があんまり上手とは言えなかったことですが、それも筆を重ねていくことによっていずれ解消されることでしょう。

10年代の大収穫といっていい一作だと思います。

この作品をきっかけに、SFがまた息を吹き返してくれれば、と願ってやみません。

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