スペイン 2015
監督 フェルナンド・レオン・デ・アラノア
原作 パウラ・ファリアス
90年代、停戦直後のバルカン半島を舞台に、国際援助組織「国境なき水と衛生管理団」の活動を描いた戦場ドラマ。
えー不勉強で恥ずかしいんですが、国際援助組織っていったいどういう機関なのか、私はよく知らなくて。
「国境なき水と衛生管理団」ってのが実在する組織なのかどうかすらもわからなければ、誰が運営してて活動費はどこからでてるのかすらわからない。
作中でも組織に関しては詳しく言及されてません。
見てる限りで伝わってくるのは、大きな権限もなければ潤沢な資金もない、ほぼ善意で戦災に見舞われた人たちの復興を手助けする人たち、って感じ。
ボランティアみたいなものなのかな?とも思うんですが、妙に司令系統がしっかりしてるんで、それはそれでまた誤謬がありそうな。
立ち位置としては限りなく民間団体に近い様子。
そんな彼らがたった1本のロープを求めて、復興の段取りすら整っていない戦後の街を右往左往するさまをカメラは追っていくんですが、これ、なにゆえ1本のロープなのかというと、井戸に投げ込まれた死体を引き上げるためなんですね。
上下水道が整備されていないがゆえ、井戸が汚染されてしまうと住民の生活が成り立たないわけです。
事態は急を要する。
なのにたった一本のロープがどうしても手に入らない。
売ってないわけじゃないんです。
あるところにはあるんだけど、思い込みや偏見、縦割り組織の融通の効かなさなんかが邪魔をして、誰一人として協力してくれない。
作品が訴えかけるのは「純然たる善意ですらまるで通用しない世界」のいびつさ。
まー、どいつもこいつも独善的です。
国連は役立たずだわ、軍隊は停戦だって言ってるのに銃を手放さないわで。
それでも国境なき水と衛生管理団は諦めません。
アクシデントに見舞われながらも粘り強く事態を好転させようと努力する。
監督が上手だったのは、そんな彼らを、自己犠牲も厭わぬ盲信者のように描写するのではなく、生身の人間としてふてぶてしくもどこか戯画的にキャラ立てしたこと。
クソ真面目なだけの善意の押しつけを礼賛してるわけじゃないんですね。
「当たり前の人助けが当たり前にできないって、どういうことなの?」という問いかけがそこにはある。
終盤の展開なんて、ここまでやっても報われないのか、と言いたくなるようなやるせなさです。
それでも彼らは失望こそすれ、失意のどん底には沈まない。
他になにかできることがあるのではないか、と次の可能性を探る。
もうこれ、援助なんて言葉で言い表せる活動じゃないな、と私は思うんですね。
こんなことをやってる連中がいたのか、という驚きももちろんあって。
またエンディングに待ち受けるオチがなんとも皮肉でユーモアが効いてるんです。
それをperfect day(原題)と言い放つセンスに脱帽という他ない。
壊れた世界を取り繕う小さな助力を、徒労の果てに塗り込めた秀作だと思います。
戦争の悲惨さを情に訴えかける諸作よりも、はるかにその実態を雄弁に語っているように私は思いました。
見て損のない一作じゃないでしょうか。
ベニチオ・デル・トロやティム・ロビンスの飄々とした演技も必見。