スペイン 1989
監督、脚本 ペドロ・アルモドバル

衣食住を得るために、確信犯的に精神病院へ入退院を繰り返す男の恋路を描いた屈折系ラブロマンス。
この作品が一風変わってるのは、主人公リッキーの女性に対するアプローチの仕方が完全に犯罪なことでしょうね。
リッキー、このままじゃいかん、と一念発起してまともに生きていこうとするんですけどね、最初にやらかしたのが、かつて縁のあった女優マリーナの自宅へ侵入して彼女を拘束すること。
俺は君のことを誰よりも愛しているから君も俺のことを好きになってくれ、それまでは申し訳ないけど監禁するから、と平気で言い放つんですな。
えーと、89年に社会的な認知があったかどうかわからないんですが、それ完全にストーカー的思考だから!リッキー!
というか、意図的に精神病院へ入ってたんじゃなくて、本気で患者じゃねえかよ!それ!
まあ、ストーカー規制法が国内において2000年に制定されたことを鑑みるなら、題材としては恐ろしく先取りだったかもしれません。
それをアルモドバルの慧眼と言うべきなのかどうかは悩むところですけどね。
ひょっとしたらストックホルム症候群について描きたかったのかもしれませんし。
むしろ物語のオチから逆に考えるなら、ストックホルム症候群が隠しテーマ、と見たほうがいいかもしれません。
どっちともとれるんですよね。
で、その「どっちともとれる」曖昧さがね、演出の甘さ、シナリオの不出来にも感じられたりするあたりが辛いところでね。
とりあえず、二人の心の機微を丁寧に描写してるとは言い難いですね。
私なんざ、エンディングで「なんじゃそりゃ。アバウトすぎるだろ!」と思わずつっこんでしまいましたし。
どこか監督らしくない。
女性目線で世界を捉えることにあれほど饒舌だったアルモドバルが、今回に限っては馬鹿なの?と言いたくなるような女ばっかり登場させてるんですよね。
過渡期の作品、と考えるのがひょっとしたら正解かもしれません。
私の場合、こんな女は居ない、と思えた時点でアウトでしたね。
ちなみに主演リッキーを若き日のアントニオ・バンデラスが演じてて、なかなか興味深いです。
意外にもこうした偏執狂的な役柄、はまってるんですよね。
実は性格俳優な路線に進んだ方がよかったのでは、と少し思ったりもしました。