2008年初出 遠藤浩輝
講談社イブニングKC 全19巻
連載開始当時はなんとも意外な方向へシフトしたな、って思いましたねえ。
まさかEDENの次の作品が格闘ものだなんて、予測すらしてませんでしたし。
遠藤浩輝は多分、ずっとSFを描いていくんだろうな、なんて漠然と思ってた。
作者の場合、エヴァチルドレンな屈折が作家性に反映されてるように私は感じていたので、いわゆるスポーツもの的なアプローチとかできるのか?と最初は懐疑的だったりもしたんですが、これが思いのほかよく出来てたりしまして。
やはり「修斗」という決して認知度の高くない競技に焦点を当て、修斗を通じてアマチュア総合格闘技の世界を描く、というプロットが斬新だったように思います。
ボクシングや空手、プロレス漫画は数あれど、総合格闘技を題材とした作品って、私の知る限りではこのタイトル以前には存在してなかったはず。
しかも付け焼き刃じゃないんです。
本気で好きで、普段から観戦してないと絶対にわからないことが高いレベルで内容に盛り込まれてる。
そりゃね、PRIDE、UFCの勃興、隆盛を目の当たりにして追いかけてきた人間からしたらぐいぐい引き込まれるものがありますよ。
そうか首相撲って立ち技においてそんな意味があったのか!とかね。
純然たるスポ根漫画として成立させようとしてないのもいい。
血と汗と涙、努力と師弟の絆の方程式が主人公をスターダムにのしあげていく、って感じじゃないんです。
それらしいライバルとか、チャンピオンシップで活躍したりとか、格闘漫画のセオリーを踏み外してはいないんですが、主人公が基本的にあんまりガツガツしてないんですよね。
誰よりも強くなりたい、とか誰にもなめられたくない、とかそんな風じゃなくて、あくまで競技として修斗にのめり込み、研鑽の結果が勝利を導くことに喜びを見出すタイプなんです。
どこにでもいそうな隣人的キャラクター設定。
時代に即してる、と私は思った。
そういつまでもハングリーであることばかりを売りにはできない、って話ですしね。
同じチームの女子選手の活躍を同時に追っていく構成もいい。
総合格闘技を知らない人にとってはその魅力を知る入門書的漫画、と言っていいんじゃないでしょうかね。
ま、ジョーや一歩みたいなカタルシスは希薄ですけどね、私は修斗の世界を描いて19巻も連載続いたことをまず評価したいですね。
連続性のある動きを違和感なく表現した高い画力も必見。
また機会があれば「プロ編」とか連載して欲しいですね。
ひょっとしたらEDEN以上の秀作かもしれない、と思います。