シルバー・グローブ

ポーランド 1977(1987)
監督 アンジェイ・ズラウスキ
原作 イェジー・ズラウスキ

シルバー・グローブ

1977年に膨大な制作費を投じて制作されるも、当時のポーランド政府文化庁の弾圧により公開中止に追い込まれたいわくつきのSF大作。

その10年後、規制が緩和されたのを見計らい、監督のズラウスキは作品を完成させようと試みるが、その時点でフィルムの1/5が消失。

再度撮影しようにも出演した役者全員が歳をとってしまっていたがため、消失した部分を補うのは不可能と判断したズラウスキは失われたシーンを自らの肉声によるナレーションで補足。

あえて未完成のまま公開されたのが1987年。

VHSでしか発売されておらず、長らく幻の一作でしたが、2018年ようやくDVD化。

原作はおよそ100年前に書かれた監督の大叔父の小説。

荒廃した地球から脱出して他天体へとたどり着いた宇宙飛行士の奇矯な運命を描いた内容なんですが、まあ、なんといいますか強烈としか言いようがないですね、これ。

ちなみに宇宙人とか出てきません。

言うなれば他の惑星に根を下ろした宇宙飛行士の「もうひとつの創世記」とも呼べる物語。

ストーリーの肝となっているのは、その惑星で産まれた地球人の子どもたちは、純地球人よりも早い速度で歳をとってしまう、という設定。

父親が10歳年をとる間に、子どもたちは近親交配を繰り返して集落を築き上げてしまうんですね。

集落を支配するのは原始的な宗教的規律。

父親は彼の子孫から崇拝、神格化され、オールドマンと呼ばれて崇め奉られる始末。

もはや父親の手に負えなくなった異文化の狂った日常を、監督は彼が持つ船外記録用のカメラで写す、という手法で描写していきます。

そう、POVなんですよね、この作品、その大半が。

77年にこんなアイディアを投入した監督が居たのか、というのが私の場合、まず驚きでした。

さらにこの作品、最初に他天体へと不時着した宇宙飛行士だけの物語で終わらないんです。

彼の記録したフィルムを偶然手にした地球人の科学者が、世代交代の進んだ惑星に訪れ、原始的社会がどのように変貌を遂げていったのかを記録する、第2部ともいえる展開が待ち受けてたりする。

もはや、宇宙叙事詩とも言えるヴォリュームの160分。

よくぞまあこんな壮大な物語をまるごと映像化しようと思ったものだなと、そのあくなき情熱にほとほと頭が下がります。

普通は予算の都合がつかないですよ、こんな超大作。

ただね、なんかもう凄いことになってる、ってのは実感できるにせよ、それが面白かったのか?ってのはまた別の話でして。

やはりこの作品のハードルを恐ろしく高くしてるのは、宗教的哲学的な思想がふんだんに散りばめられたセリフの難解さでしょうね。

私が物語中盤で書き留めた科学者のセリフの一節が以下の一文。

「虚栄心、死に急ぎ、私の死。それらの中に私自身が見える。彼女の恍惚の砦が私を縛り付け、中に入るために叫んでいる。外に出るためでも同じこと。無限とは内なるもの。動物という名のもとで真実に触れるのだ」

・・・・はい、わけがわかりません。

でね、こんな調子で登場人物の誰もが、延々抽象的、観念的なことを、口角に唾とばして喋りまくるんですよ。

なんだかもう異様なテンションなのは確かです。

どの役者もなにかのりうつってるんじゃねえか、と思えるほどの鬼気迫る演技なんです。

しいて言うなら、アングラ前衛舞踏を最前列で見てるかのような迫力があったことは否定しない。

・・・・けど、さっぱり意味がわからない。

正直、おおまかなあらすじを把握するだけでも至難の技でした。

何度も再生を止めて、プレビューを繰り返すこと数度。

さらには、行きつ戻りつしながら、ああ、そういうことか、と理解したかと思えば、突然映像がぶち切れて監督のナレーションによる解説が唐突に挟みこまれてきたりなんぞするんですよ。

ちょっと待て!わからん、もう一度言ってくれ、みたいな。

ナレーション時に挿入される映像もよくわからないものが多くて。

なぜSF映画のナレーションで、ワルシャワの雑踏を映した光景を挿入したりするのか?と。

集中力が途切れて我に返ることおびただしい。

普通に暗転でよかったんじゃないか?と。

未完成を承知の上で見てるんだから、そこはつっこんじゃあいけないところなのかもしれませんけどね。

青みがかった色調の映像や、衣装のセンス、美術等、全く古さが感じられませんし、むしろこれ、現代でも通用するかっっこよさがあるんじゃないか、と思いましたし、共産圏の古い映画独特の長回し、冗長さもあまり感じられませんでしたし、惹かれるものはたくさんあったんですけどね、いかんせん、思想がこれでもかと前面に出過ぎてるのがネックかと。

ものすごく体力を消費する映画です。

皮肉や暗喩、反骨や内省を全部飲み込んで、オリジナルの聖典でも作ろうかとせんばかりの勢いな一作。

こんなのそんじょそこらにない。

それは確か。

けれど、これを傑作!と称賛できるのはよほどの識者か好事家じゃないと無理なんじゃないかと思いますね。

こういう映画もあるのだ、と知る意味では見る価値はあるかもしれませんが。

とんでもない監督が居たものだなあ・・・とちょっとカルチャーショックだったりはしましたけどね。

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