アイ・シティ

1983年初出 板橋しゅうほう
双葉社アクションコミックス 全2巻

作者の出世作といってもいい一作。

のちにOVA化もされ、SFファンの間では高く評価された長編ですが、広く世間の認知度を高めるまでには至らなかったのが残念な限り。

サイキックバトルもの、みたいな紹介をされることが多いですが、この作品がすごかったのは、1983年のどこかの町を舞台としながらも、町そのものが実は閉鎖空間であった、とした序盤の展開でしょうね。

もちろん住人はそんなこと意識してない。

町の外には他の都市があって、海があって、諸外国が存在してる、と思ってる。

それがある日、とあるトラブルで「空間の裂け目」をあらわにするんですね。

破れた空間から現れたのは巨大なチューブの群れ。

そうこうしているうちに、この世界には「天井がある」と人々は知ることになる。

しかもその天井は、貼り付いたスモッグや排気ガスを雪のように舞い散らせながら、日に日に降下してくる。

圧殺されるのを待つのみなのか、それとも脱出の手段はあるのか?が、1巻までのあらまし。

初読は学生の頃だったんですけどね、いやもう興奮しましたね。

世界まるごとを「虚構」だと設定しちゃうのか、と。

どっちかと言うと、これってオチになるネタだと思うんですよ。

それをオープニングとするの?!と。

つまりは、ここからさらに物語は発展していく、ということ。

いやもう大丈夫なのか?と

ハードル高すぎやしないか?と。

ま、すべては杞憂だったんですけどね、恐るべし板橋しゅうほう。

2巻からのストーリー進行はまさに怒涛です。

どんでん返しに次ぐどんでん返しの果てに、閉鎖空間である街はなんのために存在したのか?そして主人公たちの役割はなんだったのか?が、SFの醍醐味と想像性を堪能できるロジックで、あれよあれよとあからさまにされてゆく。

そして迎えたラストシーン、いやもうほんとびっくりした。

腰ぬかした。

こんなオチを最後の最後に隠し持ってやがったのか!と。

いやもう、震えましたね。

長らく私にとってのバイブルたるSF漫画でしたね、この作品は。

そりゃね、年月を経るにつれ、同じようなネタのSF小説が海外に存在することを知ったり、90年代に発表されたある映画がほぼ同じオチで、そっちのほうが今や有名だったりとか、すっかり当時のインパクトも霞んでしまった印象もあるんですけどね、83年にこんなことやってる漫画家は誰ひとりとして居なかったことだけは自信を持って言えますね、私は。

ガジェットの数々も秀逸。

ヘッドメーターズのアイディアなんて、のちのドラゴンボールにおけるスカウターと全く同じですから。

ほんともう、誰も言ってくれない。

派手なアクションとSFマインドの豊かさ、シナリオの高い構築性が見事結実した傑作だと思います。

作者の漫画を読んだことがない、という人はここから入るのが正解じゃないかと思いますね。

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