韓国 2013
監督、脚本 ヨン・サンホ

韓国発の大人向け社会派アニメ。
ダム建設のため水没することが決まっている寒村に突然やってきた宗教団体と、村人たちの関わりを描いた作品。
で、このアニメのミソが「宗教団体は詐欺師集団である」という前提。
ただし、その事実は村で嫌われてる粗暴なチンピラもどきの中年男しか知らない。
中年男、村人から一切信用されてません。
普段の素行が悪すぎて。
警察ですら中年男を邪険に扱う始末。
信者を次々と増やしていく宗教団体を、はたして中年男は止められるのか?というのが物語のあらまし。
とりあえず私が最後まで見て唸らされたのは、宗教というものの本質を見事に捉えている、と思えた点ですかね。
宗教が何に巣食い肥え太るのか?というと、おおむね貧困と不幸であることは周知の事実かと思うのですが、この作品がすごかったのはそこからさらにもう一歩踏み込んでいたこと。
普通に考えるなら、宗教団体が実はニセモノだった、というのを知らしめるエンディングでもってカタルシスとするのが常道だと思うんですよ。
ところがヨン・サンホはそんな勧善懲悪の図式で物語を閉じたりはしない。
描かれているのは、それが本当でなくてもかまわないので救ってくれ、と願う人々の悔恨であり苦悩。
そこに「素行はどうであれ中年男が正しい」と信じる観客を、全く別のステージへと誘う仕掛けがある。
村人達は心の底で真に何を求め、何を欲しているのか?それを否応なく悟らざるをえない図式の先に待ち受けているのは、これが救済でしょ?と暗に皮肉るかのような衝撃のクライマックスで。
もうね、重量級のやるせなさです。
非を断罪するのは簡単なんですけどね、それでなにかが解決するとも思えないのがなんとも痛々しい。
エンディングが示唆するものも強烈。
語弊があるかもしれませんが、私は「必要悪」なんて単語が脳裏によぎったりした。
なんて人はままならない存在なんだろう、と落ち込みそうになる一作でしたね。
しかしながら、こりゃ間違いなく本物ですね。
物語の構造、配役、シナリオ、演出ともに隙なしと言っていいんじゃないでしょうか。
新感染はイレギュラーじゃなかったんだなあ、とつくづく思いましたね。
ただ、唯一疑問に感じたのは、これをアニメでやる必要があったのか?という部分。
もうね、どう考えても実写向きの題材であり、テーマなんですよ。
監督は日本の今敏に影響受けてるらしいんで、アニメにこだわりたかったのかもしれませんけどね。
今後の活躍が気になる人がまた一人増えた、といったところでしょうか。
ちなみにアニメそのものの完成度はまだまだ改良の余地があるかな、と言った感じ。
大人向けのアニメ市場が存在しない韓国でこれだけやれたことを勘案するなら、いささか厳しすぎる意見かもしれませんが。