フランス/スペイン/ベルギー 2015
監督 ルシール・アザリロヴィック
脚本 ルシール・アザリロヴィック、アランテ・カヴァイテ
少年と、その母親ぐらいの年令の女性しか住んでいない奇妙な島での、禁忌に縛られた謎の生活を描いたスリラー。
なぜ父親が居ないのか、なぜ老人は存在しないのか、一切語られる事はありません。
描かれているのは数人の母親と少年たちの、どこか風変わりな日常の風景。
いわく、子供は海に潜ってはいけない。
食事は母親が用意した得体のしれぬ流動食のみ。
どう見ても健康そうなのに、子供は必ず1日に1度、飲み薬を処方される。
一定の期間が経過すると、子供は島の病院らしき施設に強制的に収容される。
はっきり言って、何が起こってるのか、物語はどこに向かっているのか、まるで見当がつきません。
積み重ねられていくのは、常識的な尺度では推し量れぬ「違和感」。
で、その違和感が、見るものを惹きつけてやまぬ強烈な磁力を発します。
これは一体どういうことなんだ?と画面から目が離せない状態。
そして物語が大きく動くのは中盤以降。
一人の少年が、何かがおかしい、と色々探りを入れだすんですね。
そこからの展開は、もう悪夢的形相を呈している、と言っていいでしょう。
母親たちの背中に存在するものといい、入院させられた少年たちの末路といい、尋常じゃない薄気味悪さ。
なんだこれホラー?SF?と、激しく戸惑うも、生理的な嫌悪感をないまぜにしてひたすらストーリーは狂気と異形をぐつぐつと煮詰めていく。
これ、収拾がつくのか?と不安になる忌まわしさでやがて迎えたエンディング、さて全てが明らかにされたのか?というと実は依然なにも語られぬままだったりするんですが、それなりの想像がつく仕掛けにはなっています。
絵で全部察してくれ、ってことなんでしょう、きっと。
見る人によっては「なんだこれ?」で終わりかもしれません。
ですが、あえて説明せず、すべてを情景描写だけで語ったがゆえに幻出した異郷のおぞましさは、他のやり方ではなしえなかったものではないか、と私は思ったりします。
識者が「初期のクローネンバーグのようだ」とコメントを残していましたが、まさに言い得て妙。
怪作ですね。
断片的なイマジネーションの奔流が、凄烈な不気味さを記憶に刻みつける一作。
あえて万人にはオススメしませんが、はっきりとわからないもどかしさを悪夢の手触りそのものだと感じられる人なら、後味の悪さが評価につながるんじゃないか、と思いますね。