1976年初出 石ノ森章太郎
秋田漫画文庫 全4巻

僻地に隠された空間転移装置によって、火星に移送された主人公の冒険を描くSFファンタジー。
誰かがこれは石ノ森章太郎による「火星のプリンセス」だ、と評してましたが、ああ、そう言われればそうかも、って感じですね。
まえがきで「E・R・バローズとジョン・カーターに捧げる」とご本人も書いてらっしゃいますし。
実は火星には地下都市があって、そこは巨大化した昆虫が人間を捕食する世界だった、というのが物語の骨子なんですが、どことなくかの名作「リュウの道」と質感は近いです。
ケレン味たっぷりなヒロイック・ファンタジーといったほうがいい、と思える点も似てる。
作者自身がどう考えていたのかはわからないんですが、リュウの道の火星版をやりたかったのかなあ、と思ったり。
私が少し引っかかったのは、相変わらず石ノ森先生がUFO大好きなこと。
オチはそれなりに本格SFな展開で唸らされるものもあるんですが、もう異星人を絡めてくるのはいい加減にしたほうがいいんじゃないか、と正直思ったりもしました。
ほとんどの石ノ森SFは最後にUFO飛んできて語りだしますからね。
広げた風呂敷をたたむすべがUFOしかないのか、とつっこみたくもなる。
ヒロインの扱いがおそろしくぞんざいなのも相変わらず。
後追いでここまで読み漁ってきましたが、ことSFに関しては作者の限界が見えてきたような気もした一作。
創造性豊かな冒険譚そのものは今読んでも楽しめるものがあるんですが、それと同時に、時代劇や人情ものに力を入れだした後年の方向性がなんとなく納得できたりもしましたね。
どちらかというとファン向けかもしれません。