アメリカ 2016
監督、脚本 ケネス・ロナーガン

救われない暗い過去を持つ男が、甥っ子の後見人に指名されたことでもう一度自分の人生を見つめ直そうとする物語。
なんといってもドラマ作りのうまさ、それに尽きるでしょうね。
説明っぽいことは一切やらずに、見てるだけで全部をわからせる好例といえるんじゃないでしょうか。
過去と現在を交錯させながら進んでいくシナリオ構成もいい。
観客の興味が逸れないように、物語世界の求心力を保つ術に長けている。
ともすればただひたすら暗いストーリーになりがちなのを「どうなってるだろう?」「なぜ?」「どうして?」で上手に繋いでいくんですね。
出演陣の演技も素晴らしい。
特筆すべきはケイシー・アフレックで、言葉少なに表情だけで魅せる演技には唸らされましたね。
必見は元妻と偶然再会するシーンで、セリフ回しの巧妙さもさることながら、抱えた思いの複雑さをこうも見事に表現するか、と震えました。
ただ、この物語、137分もの長丁場ながら、ある意味でどこにもオチない。
主人公にとって状況の変化が本当に救いになったのか、それは観客に委ねられたまま。
普通ならなんらかの解決なり、過去との決別なりをカタルシスとして最後に用意しておくのが常道かと思うんですが、監督はあえて放棄してます。
そこがスッキリしない、という人も一定数いるかもしれない。
けれど現実的に考えるなら、あれだけの過去を振り切ってこれからは楽しくやっていこう、なんて絶対無理だろうし、ご都合主義的ハッピーエンドを排除するならこれが正しかったのかも、と私は思ったりしますね。
誰にも救うことが出来ない主人公である弟を、息子の後見人に指名した兄の思いこそが実は物語のすべてを支配するものだったのかもしれない、と後からふと気づいたり。
決して気楽に見れる作品ではありませんが、登場人物の心の機微を細やかにスケッチした秀作だと思います。
濃密なドラマ性に心奪われることは保証します。