フランス 2016
監督 ジャン=フランソワ・リシェ
原作 ピーター・グレイク

家出して音信不通だった娘がマフィアと関わったせいで、ヒットマンを差し向けられる羽目となるが、なんせ娘のオヤジはメル・ギブソンなんでそう簡単にはいかないよ、って映画。
ここ最近のリーアム・ニーソン主演作品を思い浮かべていただければおおよその内容は想像がつくことだろうと思われます。
96時間とか誘拐の掟とか。
テーマとなってるのはお馴染み親子愛。
もちろん前提として父と娘の断絶があるわけです。
それが逃亡生活を続けるうちに徐々に打ち解けていくと。
もうあえて説明するまでもなく、鉄板のシナリオライティングが!今、目の前で!って感じ。
特徴的なのは娘がクズならオヤジもクズ、と呵責なく描かれている点でしょうか。
なんせオヤジは嫁にも愛想つかされて逃げられた元アル中の犯罪者。
最近ムショから出てきたばかり。
断酒会で「1年酒を断ってます」と告白してたりする。
そりゃ娘もグレて家出するわ!と誰もが納得する生き様を晒してるんです。
で、難しいのは、オヤジもダメ人間、娘もビッチじゃやっぱり感情移入しにくい部分があること。
もうね、全部自業自得なんですよ、なにもかもが。
そりゃ窮地に追い込まれても仕方がないわ、と他所の世界の出来事を眺めてる気分になる。
最終的にはその設定も終盤になってようやく生きてくるんですが、そこまでがね、どうしたって長い。
親子の心の機微を上手に演出する技に長けてるわけでもないですし。
どっちかといえば押し流されてただ逃亡劇ですし。
観客が求めているのはバカな娘を厳しく叱りつけ、それでも守ろうとするオヤジの姿だと思うんですよね。
俺はこんな男だから強くは言えないけど、とか、うじうじ逡巡してるメル・ギブソンじゃないだろうと。
俺はクソだがお前はもっとクソだ、と娘を張り倒して、それでも俺は全身全霊でお前を守ってやるからついて来い、とバイクにまたがるメルをきっとみんなは見たいはずだと思うんです。
自分のことは棚に上げて絶対的な父権を見せつけるオヤジで別にかまわなかった。
それでこそエンディングも盛り上がる、というもの。
小説が原作ということもあってか、シナリオ構成はやたらとしっかりしてるように感じましたが、なんだかカタルシスを得にくい一作、その一言ですね。
わかりやすく無敵のオヤジを描くのではなく、至極現実的にマフィアとの駆け引きや逃走生活を描写することに心を砕いたのが敗因か。
いっそのことオヤジを暴力とは無縁なただのアル中と設定したほうが面白味は増したかも。
期待値はマッドマックスだったが蓋を開けてみればマッドじゃなかった、といったところでしょうか。