中国/香港 2016
監督 ウィルソン・イップ

ドニー・イェンの名を不動のものにしたと言っても過言ではない、おなじみイップマンシリーズ第三弾。
はっきり申し上げまして私、もうゲロ吐きそうなぐらいイップマン大好きでございます。
誤解を恐れずに言うなら香港カンフー映画最高峰の連作もの、とすら思ってるぐらい。
そりゃもうこの第三弾、楽しみで仕方ございませんでした。
またあの超絶な体技を活かしたアクションシーンと、泣かせるドラマの両立をきっと見せつけてくれるに違いない、と。
監督も前2作と同じ、ウィルソン・イップですしね。
ところがだ。
1時間ほど経過した時点で、あれ?と頭をひねる私。
なんか盛り上がらない。
激動の時代を変節することなくストイックに生き抜いたイップマンの高潔な人間像が物語から浮き上がってこない。
というかこれ、有象無象のカンフー映画とシナリオ、そう変わらないんじゃないか?と。
というのもね、物語の対立図式がイップマンvs地上げ屋になっちゃってるからなんですよね。
地域の小学校を地上げさせないために単身見張り役を買って出るイップマン。
ちょっかいを出してくるやつはお得意の詠春拳で撃退だ。
そして最後は地上げ屋のボスと最終決戦!って、80年代のジャッキーチェンかよ!って話であって。
いつからイップマンはナニワの帝王みたいなネタを取り扱うようになったのだ、と。
日本軍であったり、戦争であったり、抗いようのない巨大な時代の波に立ち向かい続けたイップマンはどこへ行ったんだよ、と。
やばい、これはマジでダメかもしれない、と、どんどん冷めていく私。
ラストを飾る詠春拳vs詠春拳の戦いもとってつけたような感じでしたね。
イップマン地上げ屋編、で終わらせるのはさすがにやばいと配慮したのが丸わかり。
さらには肝心の格闘シーンも今回に限ってはなんだか冴えない。
連続性やデティールにこだわらず、全体の枠組みの中で輪郭だけを重視した感じというか。
調べてみたらアクション監督がサモハン・キンポーからユエン・ウーピンに変わってた。
納得。
辛辣に言うならひと昔前の香港映画の撮り方なんですよね。
ドニーやサモハンが進化させた現在形じゃない。
というか、ユエン・ウーピンはまだワイヤーにこだわってるのか、と。
ワイヤーが必要なシーンなんて全然ないのに、それでもワイヤーを使おうとするあたり、時代を読みきれてない頑迷さがそこはかとなく香って痛い。
唯一の救いは病床の妻を看病するイップマンが、妻の一言で思わず落涙してしまったシーンでしょうか。
この場面におけるドニー・イェンの演技は素晴らしかった、と思います。
一言もセリフを発せぬまま、表情だけですべてを伝えきってみせた。
ああ、今回は面白くない~とがっくり来てた私も、このワンシーンだけは思わずもらい泣きしてしまった。
あとはマイク・タイソンとの格闘シーンで、風船を飛ばしてみせたウィルソン・イップの演出の見事さでしょうかね。
今、香港の映画シーンでこんなことができる人はそう居ないと思います。
最後の決闘シーンで妻を道場の外に座らせたのもさすがの一言。
前半と後半で全くつながってない物語がウィルソン・イップの演出センスのおかげでなんとか終盤にはもちなおした、というのが本当のところじゃないでしょうか。
結局、一番の難点はシナリオでしょうね。
これは次回への反省点として改善してほしいもの。
ドラゴン×マッハ!で私が注目したマックス・チャンも出てるんで心情的には褒めちぎりたいんですけどね、今回に限ってはややトーンダウンした、というのが本音でしょうか。