アメリカ 2015
監督 ショーン・ベイカー
脚本 ショーン・ベイカー、クリス・バーゴッチ

まず驚きなのはiphone5s3台でこの映画を撮った、という事実でしょうね。
そりゃちゃんとしたカメラじゃないからハレーション起こしてたり、時折ノイズや斜線がはいったりはしてるんですが、それでもアナログ時代、特にVHSビデオで再生する昔の映画に比べたらはるかに映像はキレイ。
さらに私が感心したのは手ブレ全開なPOV方式に堕することなく、ちゃんと考えられたカメラワークがあること。
びっくりするほどiphoneの動きがスムーズで流麗なんですよ。
iphoneを台座に乗せてレールの上を走らせたのか?ってなぐらい。
そりゃちょっと大げさか、すまん。
もちろん、あえて狙った、と言うよりはインディ映画ならではの予算を節約するためのアイディアなんでしょうけど、スマホでこれだけのものができてしまうってのが感慨深いですね。
技術の進歩は、スポンサーがつかないアングラな才能にこれからどんどん光を当てていくのかもしれません。
映画ファンとしちゃあ、歓迎なわけですが。
で、肝心の内容ですが、簡単にまとめちゃうなら、つきあってる男の浮気が発覚して激怒したオカマのシンディの、彼氏の居所を探す1日を追ったドラマです。
シンディ、薬物所持の罪で28日間の服役を終えて街に戻ってきたばかり。
なのに彼氏は迎えにこない、さらに親友の男娼アレクサンドラからは「女が居る」と耳打ち。
よりにもよって今日はクリスマスイブ。
オカマ好きのタクシー運転手、ラズミックも騒動に1枚噛んできたりもして、さて、シンディと彼氏はどうなるのか、が物語のあらまし。
シナリオ進行にドライヴ感があるな、とは感じました。
シンディ、クライマックスに至るまでひとつのところのじっとしてないんですね。
彼氏の行方を追って右往左往。
その間に浮気相手の女の身柄を確保したりもする。
変に作り込んでない分、妙な生々しさがあるというか。
ほんとにLAのオカマ事情って、こんな感じなんじゃないのか?と思えてくるリアルさがあるんですね。
ただ、性癖がノーマルな人にとって、絵ヅラ的にキツイ、と感じる部分はあれこれあるかもしれません。
シンディもアレクサンドラもひと目見てオカマとわかる風貌ですし。
そこは言われなきゃわからないレベルにまで進化しつつある日本のニューハーフや女装男子とは大違い。
トランスジェンダーと言えば聞こえはいいですが、やっぱり人種の違いもあってか、どうみても化粧した男なんですね。
男同士の結構きわどいシーンや下品なセリフもままありますし。
そこでくじけてしまう人も居るかもしれない。
かくいう私も、これはさすがにちょっと無理、と早送りしそうになった場面が一箇所だけあった。
要はそれらを乗り越えて、最後に一体何が待ってるのか、なんですが、これが意外にも切ないラストシーンだったりして、軽く面食らいます。
なりたくてオカマになったわけじゃないセクシャルマイノリティの悲哀というか、やりきれなさというか。
ま、LGBTの苦悩を劇的に描いてる、ってほどではないんですけどね。
そこはリリーのすべてとか、あのあたりの映画と比較しちゃあいかんとは思う。
でも、今のLAに生きるあけすけなオカマの等身大の現実が、この作品には存在しているように私は思うんですね。
そこをドタバタな狂騒劇から読み取れた人にとっては、どこか記憶に残る一作になるんじゃないでしょうか。
インディーズならではの気勢を感じた映画でした。
怒られるかもしれませんが、初期のペドロ・アルモドバルに近いような感触も私は受けましたね。
余談ですがラズミックの義母のキャラがうざすぎて最高。