スピリッツ・オブ・ジ・エア

オーストラリア 1988
監督、脚本 アレックス・プロヤス

プロヤス監督がオーストラリア時代に手掛けたデビュー長編。

砂漠化した世界で、人力飛行機を飛ばそうとする車椅子の男と、その妹、逃亡者の男の3人の奇妙な関わり合いを描いた作品。

ストーリーは至極シンプルです。

逃亡者の男は追っ手から逃れるために砂漠の北にある人跡未踏な断崖を超えたい。

車椅子の男は、飛行機を作るのを手伝ってくれたらお前を乗せて一緒に飛んでやる、と言う。

その日から二人の飛行機作りが始まるんですが、妹はそれに反発。

というのも、度重なる飛行実験の失敗で兄は両足が不自由になったからなんですね。

さて、飛行機は最後には完成したのか、そして彼らは大空を舞うことができたのか、というのがおおよそのあらすじ。

アストロノーツ・ファーマー(06)あたりを想像してもらえれば、なんとなくイメージは伝わるかもしれません。

ただこの作品がアストロノーツ~と違うのは、デティールにこだわらず、一貫して現実味がないこと。

そもそも逃亡者の男は、何をやって誰に追われているのかがわからない。

砂漠の外れに住む兄妹は、何を生業とし、口に糊しているのかわからない。

しいては砂漠化した世界の仕組み、成り立ちがわからない。

非常に寓話的なんですね。

描写されるのは、どこまでも青空の続く砂漠の光景と、二人が飛行機完成に心血をそそぐ日々ばかり。

基本、3人しか登場人物はおらず、特に何かが起こるわけでもなければ、スリリングなわけでもないので、ダメな人は見始めて30分で早くも退屈でしょうね。

でも、これが不思議となんかいいんですよね。

作品の寓意を読み解くなら、これって倦怠の中で止まってしまった時間の針を、なんとか再び動かそうとする希望の物語だと思うんです。

そこに共感できれば、説明を一切省いたスリムなシナリオの底に横たわってる情念のようなものが俄然光を放ってくるはず。

エンディング、意外な場所に物語は着地します。

車椅子の男は最後に何を選択したのか、逃亡者の男はどうなったのか、意匠は近未来SF風なのに、どこかヨーロッパの人間ドラマのような質感があるのに私は舌を巻きましたね。

なんともいえない余韻を残す作品です。

変わりたい、そして、ここではないどこかへ行きたいと願い、努力を重ねるが、それでもままならないこともあるんだ、と言外に語る監督の大人びた視線に私は感銘をうけましたね。

万人におすすめできる作品ではないと思うんですが、プロヤスが私財を投げ売ってまでこの映画を撮ろうとした熱意は充分に伝わってくる一作だと思います。

私は彼の才気に触れた気がしましたね。

タイトルとURLをコピーしました