中国/香港 2016
監督、脚本 チャウ・シンチー

さしずめ、かの有名なアンデルセン童話「人魚姫」のコメディ・ヴァージョン、といったところでしょうか。
もちろん現在のお話なんで、細かな設定に違いはあるんですが、人間と人魚姫の報われぬ恋を描く、というストーリーラインの核はほぼ同じと言っていいでしょうね。
チャウ・シンチーがやらかしたのはそこにドリフばりのベタなギャグを大量に持ち込んだこと。
もう、無茶苦茶やってます。
タコ人間は出てくるわ、ババアの人魚はでてくるわで、それら濃いキャラたちが一斉にドタバタコントを繰り広げるんですね。
正直、笑いの質のみに着目するなら、古いな、と感じる部分も無きにしもあらず。
日本人的な感覚で言うなら欽ちゃんあたりで止まってます。
まだとんねるずやダウンタウンは登場してない感じ。
なので、なかなか無条件に大笑い、ってわけにはいかないんですが(スベってると感じた部分も多々あり)、時々ね、ツボにはまって爆笑したりもないわけではなくて。
これ、難しいところなんですよね。
全く笑えない、というわけじゃないのがなんとも扱いにくい。
中盤ぐらいまでは辛い時間もそれなりにあったりしたものだから。
ま、私がよくがんばった、と思ったのは誰もが知ってる人魚姫を現代によみがえらせるにあたって、オリジナルとは違う結末を選択した点でしょうか。
わかりやすいハッピーエンドといえばそれまでですが、アンデルセンの屈折がいやらしく反映した原典をあえてドラマチックかつ感動的に結んだシナリオは決して悪くはない。
大衆映画的であることがいい方向に作用してるように思いましたね。
やっぱりね、傷つき息も絶え絶えの人魚をさらに悲恋で追い打ちかける、って、どこまで非情なんだよ、って話で。
人魚が恋する人間の男を、真の意味で勇気と気骨ある「王子」に仕立て上げたクライマックスの演出は、そうこなくちゃあ!ときっと誰もが喝采を送ったことでしょう。
王道の展開なんですけどね、その王道を人間の残酷さや醜い嫉妬が渦巻く痛々しいシーンのあとに持ってくる、ってのがやっぱりうまいし、落とし所がわかってる、って感じでしたね。
ラストシーン、不覚にも目頭が熱くなります。
なんでこんな映画でうるうるしてるんだ、と著しく自分の情動を疑ったりもしたわけですが、これがねえ、なんだか妙に美しかったりするんですよね。
いかにも香港映画、と言ってしまえばそれまでかもしれません。
ですが、奇をてらわず、セオリーに忠実であることも、時には「笑って泣かせる人情噺」のように気持ちに訴えかけてくるものなのだなあ、と思った次第。
いい映画だと思います。
子供と見るにはちょうどいいかも。
人魚を演じたリン・ユンの初々しさ、体当たり演技も印象的で二重丸。