スペイン 1984
監督、脚本 ペドロ・アルモドバル
大して稼ぎもないくせに、専制君主よろしく妻を縛る夫と崩壊寸前のその家族を描いた、アルモドバル初期の作品。
私の書いた紹介文だけを読んでいると、重い作品っぽい印象を受けるかもしれませんが、実際はそれほど鬱屈したトーンの内容ってわけでもありません。
なんせ主人公一家、息子の歯医者代すら捻出できないような台所事情なんで悲惨と言えば悲惨なんですが、監督はそれをあまり深刻ぶって描写しないんですね。
コメディというほど吹っ切れてはいないんですが、どこか飄々と傍観者風、というか。
妙なキャラも何人か登場してきて、座をかき回したりすることもあって、悲喜劇風の質感が濃い。
まあ、監督らしい作風といえばそうかもしれません。
題材の割にはサクサク見れるのは確か。
物語は妻であるグロリアの目線を通して、彼女自身の葛藤や、断絶した家族模様を追うことに焦点が絞られてるんですが、中盤ぐらいまで、どこに向かおうとしてるのか全然予測がつかない、というのはありました。
なんかもう色々と袋小路なんだけど、それでもタフに生き抜いていく女のしたたかさみたいな部分を浮き彫りにしたいのかな、などと最初は思ったりもしたんですが、それも終盤のある事件で見当違いだった、と思い知らされます。
あんまり詳しくは書けないんですが、急にサスペンス調な展開になってくるんですね。
これはひょっとするとシリアスで救われない結末が待ってるのか、と少し覚悟したりもしたんですが、いざ、終わってみれば別にそんなわけでもなくて。
さて、これはどうしたものか、と。
私の感覚でいうなら、どこかスカされたような気がしなくもありません。
少なくとも事件が招く顛末ではないように思うんですね。
落とし所が見当たらなくて、仕方なしに別のところからそれらしいものを強引に用意してきたような感触があるというか。
急にエンディングで編み上げてきた糸がほぐれちゃったような散漫さを私は感じました。
うーん、なにをどうしたかったのか、アルモドバル。
エンディング抜きに語るなら、テンポよく、筋運びも飽きさせないものがあったと思えるだけになんか拍子抜けでしたね。
熱心なファンのための一作かと。
「バチあたり修道院の最後」や「神経衰弱ギリギリの女たち」には及ばず、といったところでしょうか。