アルゼンチン/スペイン 2014
監督、脚本 ダミアン・ジフロン
6つのショートストーリーから構成されたオムニバス映画。
さて邦題の「人生スイッチ」なんですが、何故にこのようなタイトルに?と、私は結構疑問だったりします。
「押したら最後」だなんてキャッチコピーがついてたものだから、てっきりそのような摩訶不思議なスィッチが各話に登場するものなのだと思い込んでたんですよ。
いわば、ドラえもんの四次元ポケットから出てくる秘密道具的な感じの何かが。
押すことによって窮地を脱することはできるが、その後の顛末は保証しない、みたいな風の。
全然違った。
別にスイッチとかまるで物語に関係ないし。
おかげで3話ぐらいまで、一体いつになったら「人生スイッチ」は登場するのだろう?と、あれこれ作り手の意図を勘ぐる羽目になってしまい、なにかと混乱させられました。
えっ?私だけ?
早とちりすぎ?
でもこれ、誤解を招くと思うんですけどね、藤子アニメ世代にとっては。
そもそも原題はRELATOS SALVAJES WILD TALESで、ワイルドな物語するぜ、みたいな意味なんで、邦題、かすってすらいないわけです。
よくあることですが、もうちょっと内容を的確に捉えた邦題考えようよ、と。
だって各話に登場するキャラクター、誰ひとりとして「今ここで逡巡にケリをつけ、思い切って決断のスイッチを押すべきか」なんて悩んでませんし。
ほんと安直でセンスがなくて発想が貧しくて語彙が貧困でイラッとしますね、こういうの。
言っても詮無いことなのかもしれないですけど。
ただ、内容そのものはタイトルに反して6話とも実によくできてます。
私が感心したのはショートストーリーながら、そのどれもが長編に膨らませることが充分可能に思えるほどの密度、着想の面白さ、シチュエーションづくりのうまさがあること。
1話だったら、途中で犯人との操縦室の壁を隔てたやり取りを盛り込んであのオチにすれば、見事な航空機パニックものであり、後味のブラックなサスペンスになったでしょうし、2話だったら、料理人の女の過去を思わせぶりにじっくり描いて彼女自身をサイコキラーに仕立て上げれば、予想外の展開に唸らされるスリラーになったはず。
3話なら、ヒッチャーや激突に通づる怖さを、もっと尺があれば演出することが可能だと思ったし、4話なんて、社会の歪みをアイロニックに描く家族ドラマとして緩急の付け方がうまいだけに駆け足過ぎる、と思ったぐらいですし。
5話だと、単純に親父のブチ切れぶりと金に群がる薄汚い連中のやり取りがおもしろいんですが、最後に息子が全部滅茶苦茶にしたら予想外の感動大作になった気もしますし、6話も壮絶な痴話喧嘩としてまだまだ色んなことができる余白がたっぷりあったように思えます。
こうすれば良かったのに、と否定的になってるわけじゃないんです。
シナリオ進行も話のまとめ方も台詞回しも細かい演出も鮮やか、と感じるだけに、コンパクトにまとめて小話として発表してしまうのがもったいない、って話なんです。
このダミアン・ジフロンって監督はそんじょそこらの脚本家以上に才ある人だ、と思いますね。
映画ならでのはダイナミックさ、スケールみたいなものは希薄に感じられるかもしれませんが、これだけのクオリティを誇る物語を6つも揃えるなんて、なかなかできることじゃないですよ。
優れた短編集を読み終えた後のような満足感を得られることは間違いありません。
次の作品が非常に楽しみな監督がまた現れた、って感じですね。
アルゼンチン映画、侮りがたし。
いや、面白かった。