スペイン 1983
監督、脚本 ペドロ・アルモドバル
つぶれかけた修道院をなんとか立て直そうとあがく5人の尼僧の、ぶっ飛んだ共同生活を描くコメディタッチの作品。
とりあえず国民の94%がカトリック教徒であるスペインで、よくぞここまで尼僧を茶化したものだな、と思います。
なんせ尼僧たちの洗礼名が肥溜尼にどぶ鼠尼に堕落尼、毒蛇尼。
尼長は同性愛者でヘロイン中毒だわ、虎を修道院内で飼ってる奴はいるわ、アルバイトで官能小説書いてる奴はいるわで、宗教の敬虔さも戒律もあったもんじゃない。
恋人を薬物の過剰摂取で亡くし、事件性を警察に疑われるのを恐れて頼ってきた歌手のヨランダに「あなたもやる?」と注射器を差し出すような荒れ放題の状態なんですよね。
もう滅茶苦茶です。
近年ではスペイン、信仰と実生活は別、とガチガチに教えに縛られるようなことはなくなってきてるみたいですが、なんせ80年代ですし、いくら映画とはいえこんなことやらかして大丈夫なのか?とこっちが心配になってくるほどの悪ふざけぶり。
なんとも挑発的。
ただそういった過激なキャラクターたちの振る舞いを監督は積極的に笑いに変えようとしてないんで、見る側からすると若干意図をはかりにくい、というのはあります。
妙に淡々と撮ってるんですよね。
毒のある笑いに置換したいんじゃなければ、一体どうしたかったんだ?と考え込んでしまう、というか。
まあこれはお国柄の違い、笑いのニュアンスの違いなのかもしれませんけど。
かと思えばミュージカル風に突然尼僧たちが歌い、踊りだしたりなんかもして。
体裁はやたらアグレッシヴなんだけど、なんらかの命題に対して直截ではない感じなんですね。
届きそうになってはかわす、の繰り返しなんで、そこに寸詰まりなものを感じる人も中にはいるかもしれません。
実際私も退屈に思える部分は少なからずあった。
けれど、そんなさして笑えない乱痴気騒ぎを全部ひっくり返すのが実はエンディングで。
こうくるか、と驚かされたのは確か。
ラストシーンを見て、ああこれは報われるはずのない愛を描いた作品だったのだ、とふいに気づく。
アルモドバル監督らしい、と合点。
結局デタラメ極まりない修道院とヨランダの存在は、どちらの選択も決して救いになりえるとは言い切れないやりきれなさ、希望とも言えぬ小さな灯火でしかなかったのだ、としたシビアな目線に私はちょっと唸らされましたね。
邦題が想像させるほどのクレイジーな映画ではないですが、切々とした哀しみが最後にぽつんと残る秀作だと思います。
アルモドバルがこの1作で名を挙げた、というのも納得でしたね。