アメリカ 2016
監督、脚本 バー・スティアーズ

ジェーン・オースティンの有名な恋愛小説「高慢と偏見」にゾンビを登場させてみる、という離れ業をやってのけた一作。
着想の奇抜さは評価されてしかるべきでしょうね。
ゾンビ映画が乱立しまくってもはや立ち腐れ気味な昨今、なるほどこう来たか!とその手のファンならきっとみんな唸ったはず。
国内じゃあ時代劇にゾンビを登場させる、という手口が少し前から漫画の世界でちょくちょく見受けられますが、類するようでありながら、18世紀の英国貴族社会を舞台にそれをやらかした大胆さは、格式やエレガントさと奴らが真反対であるがゆえ、時代劇よりも対比が際立っていたのは確か。
まあ、抱き合わせ商法、と言ってしまえばそれまでなんですが。
それもおもしろけりゃ結果オーライだろうと。
ちなみに私は原作小説を読んだことはないんですが、かいつまんだあらすじを調べて見た限りでは恐ろしく原作に忠実です。
シナリオのベースにあるのは高慢と偏見に振り回される男女のラブロマンス。
そこに彩りを添えるがごとくゾンビが暗躍。
ああ、原作を上手に改変してるなあ、とは思いました。
元来の世界観を壊してないんですね。
エリザベスとダーシーの恋の行方を描くことがあくまで主眼。
ゾンビはその引き立て役なわけです。
で、そこをちゃんと理解できてないと、多分この作品は楽しめないでしょうね。
まずは原作ありき。
ゾンビをぶちこんで古典を題材に滅茶苦茶やらかしてるバカ映画というわけじゃないんです。
なのでゾンビ映画につきものな悲壮感、厭世的なサバイバル感は希薄。
というか、ゾンビ自体をあんまりきちんと描いてないです。
ゾンビで怖がらせよう、おぞましさを見せつけよう、と言った指向性はほぼないに近い。
どちらかというと奴らは記号的扱い。
どこかファンタジーテイストなんですよね。
アクションシーンもそれほど重点が置かれているようには思えませんでした。
一応、ヒロインとその四姉妹は中国に渡り少林寺で修行をつんだ、という設定なんですけどね、どう見ても動きが少林寺拳法じゃないです。
華麗な体捌きをじっくり見せるようなカットもなかったですし。
しかし少林寺で修行を積んだヒロインって、これ、改めて文字にしてみるとどう考えてもコメディとしか思えんなあ。
まあ、そりゃいいか。
つまるところ、何を求めてこの映画を見るのか、でしょうね。
「高慢と偏見」を巧みに換骨奪胎した21世紀のアナザーバージョンとして捉えるなら決して悪い出来ではないと思います。
反して、18世紀英国社会にゾンビを放り込んだアクションホラー的な視点で見るなら、おそらく物足りないか、失望する。
こだわってないですしね、ゾンビに陵辱される人間世界の危機感をどう迫真でもって描くか、みたいな部分には。
実はこの作品、女性が見たほうが楽しめるのでは、というのが私の結論。
ま、個人的な嗜好だけで語るなら、もっと毒まみれでデタラメな悪ふざけをやらかしてくれてた方が好き、っちゃー好きなんですけどね。
ロバート・ロドリゲスあたりが監督してたら、なんてちょっと夢想したりはしました。
これはこれである種のパロディとして出来上がってる、とは思うんですけどね。