SOFT MACHINEと並んでカンタベリー系の音を形にしたバンド、と言われてますが、私の感触ではそれほどジャズの匂いは濃厚じゃないですね。
すべてのアルバムを聞いたわけじゃないので断言はできないですが、不思議なポップセンスがあるというか、馴染みやすさがあるというか。
いや、盛り上がらないのは確かなんです。
ジャズ由来のクールさがロックのアグレッションとは真反対の方向に作用してるものだから、パッケージはポップでも、いざ包装を解いてみたらやたら冷え切ってて「おい、ちょっとこれ、レンジでチンしてくれ」と言いたくなる感じ、とでもいいますか。
そこは、なんでこんなに没感情気味なの?と混乱してしまいそうになるほどでして。
そつなくこなしてる印象が濃いだけに、聞く人によってはひどく違和感を増大させてしまうかもしれません。
ただですね、そんな抑制された楽曲群の渦中にあって、私が「これは・・・!」と思ったのが71年に発表されたIn the Land of Grey and Pinkに収録された22分の大曲、nine feet underground。

やり口はまるで変えてない、と思うんです。
とうとうと歌うリチャード・シンクレアのまるで声を張らないヴォーカルもいつもどおりですし、激情的なプレイでリスナーに訴えかけるわけでもない。
なのにこれがやたらと感情をゆさぶるんですね。
言うなれば、青白くちろちろと大気を舐める小火が幾重にも重なり、無限回廊を幻出したかのような。
ひとつひとつにまるで起爆力はないんだけど、配置の妙と構築性、構成美がワンカットごとの地味さとはまるで違う風景を見せつけるんです。
こんなことが可能なのか?!と私は驚かされましたね。
盛り上がるはずもないのに気づけば心揺さぶられてるというパラドックス。
これこそカンタベリー系ならではの大曲志向が生み出した妙味、と言えるように思います。

同じく大曲という並びでは、75年に発表されたCunning Stuntsの
The Dabsong Conshirtoe も必聴。
メンバーが何人か入れ替わってるんでまた別物、と考えるべきなのかもしれませんが、よりポップさとロックなアプローチが増したCARAVANの面目躍如たる一曲じゃないですかね。
これは普通にシンフォファンが聞いても十分いけると思います。
きっちりプログレッシヴ・ロック。
小気味よいまでに力強かったりする。
このバンドもメンバーの変遷が激しいんで、その音楽性をたやすくひとくくりにできないものはあるんですが、個人的にはカンタベリー系の中で一番よく聞いてるバンドだったりはしますね。
特に初期は、ジャジーなのに不思議な親しみやすさが特徴的といえるんじゃないでしょうか。
