アメリカ 2016
監督 クリント・イーストウッド
脚本 トッド・コマーニキ

2009年に実際起こった旅客機不時着水事故を基とした実話もの。
恐ろしく淡々と撮ってます。
もうちょっと派手な演出とか意図的なドラマチックさに心砕いてもいいんじゃないか、ってぐらい飾り気がなくて、大丈夫なのか?とこちらが不安になってくるほどなんですが、それが老練な作為なのか、単に監督が老いたのか、そこは読みきれず。
冒頭の旅客機がビルの谷間を滑空するCGとか結構ヤバ目です。
かなり安っぽい。
なにかというと事故当日の航空機内のシーンにフラッシュバックする構成も正直くどい、と思った。
何度も同じ場面を見せつけられるんですよね。
正直、あとひとつなにかにつまずいてたら感情のバロメーターは「退屈」の側に針をふっていたかも、と思ったりもします。
なのに、いざ見終わってみたら、ああ、おもしろかった、と思えるんだからほんと不思議。
それこそがイーストウッドのマジックなのかもしれません。
とりあえずテーマの絞り方が秀逸だった、というのはありましたね。
技術が格段の進歩を遂げたことで、事故検証に数値以外の反証を必要とされなくなった昨今、それでも人が運転するものである以上、そこには人為的判断が必ず介在するのだ、としたオチは鮮やかだったと思います。
これってなにも航空機事故に限った話じゃないんですよね。
パソコンがあれば全てをデータ化、管理できると錯覚しがちな現代人のあり方に一太刀浴びせた、とでもいいますか。
あなたたちが全幅の信頼を寄せているものは決して万能ではないのだ、と訴えかけるその姿勢はまさに人間性とはなんなのか?を問うものであり、歪んだ社会性への警鐘だったように私は感じました。
また、老けたトム・ハンクスがいい。
決して感情を高ぶらせず抑えた演技が、あたえられたセリフ以上に雄弁でしたね。
なんか地味、と言う人もきっといるんでしょうけど、私はその地味さの向こう側を覗いてみて下さい、とあえて言いたいですね。
善悪や打算にとらわれることなく、ただ人を救おうと懸命になる関係者、救急隊の姿も感動的。
それを作品のテーマとはまた別にさらっと描くのが心憎い。
秀作だと思います。
これをつまらないといえるほど私はスレちゃあいないつもり。