イギリス 2009
監督、原案 ダンカン・ジョーンズ
脚本 ネイサン・パーカー

月の鉱物資源を掘削するため、単身月面世界で仕事に従事する男が遭遇する、奇妙な出来事を描いたSFスリラー。
監督デビュー作であり、数々の新人賞に輝いた作品です。
まあその、宇宙に1人きり、他天体で孤立無援、ってそれほど目新しいプロットでもないとは思いますし、有名なSF映画からの引用(オマージュ?)も随所に見られて、おや?ってのはあるんですが、低予算ながら胡散臭くなってないのに私はまず感心。
SFとしてもっともらしさを損ねないよう、最低限の気配りがあるんです。
あ、ちゃんと「もし月に人が送られるとしたらどういう形になるか」というのを検証してるな、と私は思った。
これ、ほんと重要だと思うんですね。
確かに地球のエネルギー運用を企業が月で担うとしたらこうなるかもな、と思えるか思えないかでその後の集中度が俄然変わってくる。
そこを一跨ぎに軽くクリアしてるのはやはり評価すべきでしょうね。
あれ、何かがおかしい、と主人公が察して、それがなんのせいなのか、ありきたりな展開に陥らないのもいい。
とりあえず、自分と自分が対話する(抽象的な意味でなく)羽目になるアイディアは秀逸だったと思います。
そこに人あらざるものの悲哀なんかも織り込まれてたりするんで、もう個人的には琴線に触れまくりだったりはしましたね。
人工知能を搭載した唯一の話し相手であるロボット、ガーティの感情表現をニコちゃんマークで全部やってしまう遊び心も楽しかったですし。
ただですね、若干演出力に欠ける部分があったのは確かだと思うんです。
意識して無機的な画を作ろうとしてるのはわかるんですが、主人公の心の機微まで没感情気味に淡々と描写するこたあない。
もっと動揺や混乱がないとおかしいだろう、というのはあった。
それが独創的なアイディアとは裏腹に、後半の失速感を招いていたように思います。
ラストシーンのあっけなさもスケールの割には妙にあわて気味。
もっと劇的になったはず、というもどかしさは少なからず感じた。
手厳し過ぎるかもしれませんけどね。
まあ、言うなればそれは「のびしろ」ではあるんですけどね。
物語の骨格は抜け目なくきちんと出来上がっているので、欲をいえば、という話。
新人のデビュー作にしては上出来だと思います。
ほぼサム・ロックウェルの1人芝居ですべてが進行するというのに、それを特に意識させなかった、と言うだけでも賞賛に値するでしょうし。
圧倒される派手さや怒涛のドラマがあるわけではありませんが、子供だましじゃないSFをきちんと形にした秀作、と私は推したいですね。