イギリス/ドイツ/アメリカ 2015
監督 トム・フーパー
原作 デヴィッド・エバーショフ

1920年代、世界で初めて性別適合手術を受けたデンマーク人、リリー・エルベの実話を映画化した作品。
正直言いますと、前半は相当辛かったです、私。
まず最初にドン引きしたのが、夫が妻とベッドを共にするシーンで、旦那であるアイナー(リリー)がシャツの下にこっそり妻のキャミソールを身につけていたカット。
なんで野郎の夜の異装性癖を見せつけられなきゃならんのか、と。
しかも妻はそれに動揺するわけでもなく、夫婦生活の刺激とばかりキャミソールをエロチックにまくりあげたりする始末。
そういうのは頼むからこっそりやってくれ、と。
ど直球で変態やんか、と。
このシーン、必要だったか?と今振り返ってみても疑問。
アイナーが素っ裸で自らの男性器を股間に挟み込んでポーズをとるシーンもかなりきつかった。
これ、一歩間違えたら品のないゲイバーの一発芸です。
なぜわざわざそんな笑いと紙一重な危険を冒してまで露出にこだわるのか、と。
そこまで赤裸々に描写しなきゃテーマは伝わりませんか?と。
異常性をすべて描ききることでアイナーの苦悩を浮き彫りにしたかったのかもしれませんが、それならそうで中途半端にキレイに撮ろうと変な作為を働かせるんじゃない、と私は言いたい。
これが逆に薄汚かったり、どう見ても珍妙だった方が、きついなりにもまだ現実味溢るる説得力があったように思うんです。
変ななまめかしさを演出してるのがね、一体誰にアピールしようとしてるんだ監督は、って感じなんですよね。
ありていに言うなら気どりすぎ。
もう見るのをやめようか、と思った事、数度。
ただ、そんな艱難辛苦な前半をなんとかやりすごすと、後半ではそれなりに見れる展開が。
とりあえず性同一性障害という言葉すらなかった時代に、ほとんどの医者が彼を精神の病気と断じて、わけのわからぬ放射線治療を施したり、挙句には閉鎖病棟へ入院させようとする者すら居た、というのは昔の事とはいえ衝撃でしたね。
訴えかけられているのは無理解がもたらす迫害であり、恐怖。
それとどう向き合い、最後に彼は何を得たのか、が言うなれば最大の見どころ。
エンディングは予想外に感動的です。
自分が自分であることを取り戻すために全てをかけたリリーの姿は、私達がいかにLGBTについて表層的な理解しか示していなかったか、を痛感させられます。
監督の演出に疑問は残りますが、 自己同一性のゆらぎにひるむことなく手術を選択したリリーという人物のアイコンたる生き方を知る上では見て損はない一作かもしれません。
ちなみに余談ですが嫁は偉い、というより、何も考えられなかったのでは、という気が私はしてます。
リリーとはなんだったのか、それを解き明かすために彼女は一生リリーの肖像画を描き続けたのではないでしょうか。