オランダ 2015
監督 マイク・ファン・ディム
原案 マイク・ファン・ディム、カレン・ファン・ホルスト・ペレカーン

死にたい人間の最後の瞬間を手助けする非合法な代理店に、自分の死を演出してくれ、と依頼した主人公が、日々を過ごすうちにだんだんと生への執着が湧いてきて・・・というプロットは、ありがちなものを感じさせつつも先の展開を期待させるものがあったように思うんですね。
高齢化社会が進むにつれ、各国で尊厳死が取りざたされる昨今、死を旅立ちととらえて肯定的に取り組む、という「ありうるかもしれない未来」のカリカチュアともいえる設定は、とりあえず興味深いものがありました。
代理店のボスが中盤で「今は犯罪だが必ずこの商売が合法化される時が来る」というセリフをはくんですが、なんかひどく納得する自分が居たり。
そこはアイディアの転がし方がやっぱりうまかった。
ま、物語の着地点は主人公が恋に落ちた時点でほぼ予想はつくんです。
でも題材の盛り方が上手なんでそれで集中力が途切れたり、ってなことはない。
監督はなかなかのテクニシャンだ、と感じた部分も多々あって。
特に序盤、代理店の職員が海に面する崖で車椅子の老人を押すシーン、これにはいきなりひきこまれるものがありました。
車の中から老人を見つめる主人公。
さしずめ、どこへ行こうとしてるんだろう、ってな感じでしょうか。
次の瞬間突然にわか雨がふってきて、視界がきかなくなる。
ワイパーを動かし、再度視線をたぐった先には老人の姿は見当たらない。
想像を喚起するシークエンス、ってまさにこのことだ、と私はひどく感心。
巨大なトラックがブレーキの故障で暴走してくるシーンにしたってそう。
この手のラブコメディでこんなスリリングな仕掛けを見せ方にこだわって用意してくるのか、と舌を巻いた。
かと思えば砂浜でダンスのステップを練習するひどくロマンチックなシーンがあったりもする。
後半での軽いどんでん返しも含め、どう物語を肉付けしていくのかという点で非凡なものがあったことは確か。
わかっちゃいるのになんだかおもしろい、ってのは相当な腕がないと出来ないことだと思うんですよ。
それゆえ、幾分残念だったのがエンディング。
いや、これはこれで意外性の塊か、とは思います。
でもね、感情を失った男が人間性を取り戻していくのがテーマだったとするなら、ちょっとおかしな方向へ不時着してしまったような印象はぬぐえない。
ひねりすぎ、とでもいいますか。
普通にハッピーエンドでよかった、と私は思うんですけどね、なんか妙に昏い味を残す終わり方なんですよね。
スパイものじゃないんだから、みたいな。
まあ、一筋縄でいかない作品、という意味では見応えのある一作だったと思います。
ラストシーンにカタルシスを得ることはちょっと難しいかもしれませんが、最後まで飽きさせない一本ではありますね。