買厄懸場帖 九頭竜

1974年初出 石ノ森章太郎
講談社漫画文庫 1巻(全2巻)

作者の代表的な時代劇といえば佐武と市捕物控でありさんだらぼっちか、と思うんですが、個人的な好みでいうなら本作が一番よく出来てるんではないか、と思わなくもありません。

なによりプロットが秀逸。

全国を巡る薬売りでありながら、惨殺された親の仇を探すためにトラブル解決を引き受ける裏の顔をも持つ男の旅の日々を描く、ってちょっと類似作が思いつかない高い娯楽性と独自性があるように思うんですね。

なんかもう、そのままテレビドラマにでもできそうな感じ、とでも言いますか。

九頭竜の卓越した体術のベースとなる技が山岳修験道に祖をなすもの、というのも斬新だったように思います。

剣術じゃない、ってのが想像を膨らませますよね。

隠し金山なんてのが飛び出してくる謎が謎をよぶ展開も、一筋縄に敵を討たせてくれなさそうで期待させるものがあった。

ただ、そこまでエンターティメント性豊かな献立を並べておきながら、当時の風俗、情緒に重きをおいたセンシティヴな作話は、作家性とはいえちょっとまどろこっしいものがあったのは確か。

素直に気持ちよくさせてくれない、というか。

これを小池一夫、小島剛夕コンビが描いてたらなあ、なんてつい夢想してしまいますね。

さいとうたかをがひどくこの作品に入れ込んだ挙げ句、自分なりにリメイクを発表したのもわからなくはない出来ではあるんですけどね。

続きを読みたいんだけど、失望したくない、そんな葛藤を感じる一作ですね。

またいつか2巻を読んだ日に最終的な評価をつけ加えたい、と思います。

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