イタリア/フランス 2013
監督、原作 ロベルト・アンドー
選挙直前に突然失踪した政党党首の代りを、哲学教授である双子の兄に無理矢理務めさせようとするドタバタを描いたコメディタッチの作品。
おおむねのあらすじは、多くの人が「こんな感じじゃないかな・・」と思い描くパターンそのままだと思います。
支持率低迷を打開することができない優柔不断な党首(弟)の代りに据えられたド素人の兄貴が、見事な弁舌で本人以上の大活躍、あっというまに世間の支持を集める、という展開はありがちといえばありがち。
ただあからさまに笑わせようとしてない、ってのが根底にあるんで、質感は不思議にシリアスです。
そこはヨーロッパの映画ならでは。
やってることはどう見てもコメディなんですが、どこか品があるというか。
1人2役を任されたトニ・セルヴィッロがなにか腹に含むもののありそうな兄と弟を見事演じ分けていたのも大きかったですね。
これ、額面どおり受け取っても良いものなのだろうか、とつい考え込んでしまう。
というのも、なぜ弟は突然失踪しちゃったのか、なぜ兄は政治家の代役を勤めるなんていう危ない橋を平気で渡れるのか、特に作中で言及されることがないからなんですね。
何を考え、何を思い、兄弟はそれぞれの境遇に甘んじているのか、それが透けて見えてこないから、これ、なにかあるんじゃないか、とついつい勘ぐってしまう。
結果的にはその読みは物語の深遠を覗くのに、わずかながら手を貸してくれるわけですが。
エンディング、予想外の場所に物語は着地します。
あっ、っと驚かされる、ってわけではないんですけど、そういうところへ誘導するのか、と唸らされる感じ。
イタリア最大野党の話ながら、実は至極内面的で稀有なパーソナリティを題材としていた、なんて多分誰も予想しえなかったのでは、と思います。
そこから浮き彫りになってくるのは、真相を知らずに振り回され、狂騒する周りの人間の反応の薄ら寒さ。
どこかひっそりと怖いものが後をひく映画でしたね。
はたして兄弟はどこまで本気で、どこまで自覚的だったのか、見終わってからあれこれ考えてみるのも一興かと思います。
なかなか興味深い一作。
あとなにかひとつ足せば名画となりえたかもしれない、と思ったりはしました。