オランダ 2013
監督、脚本 デューデリク・エビンゲ

妻を亡くし、孤独な1人暮らしを送る初老の男の元に、妙な偶然から迷い込んだ中年男との、不思議な交流を描いた人間ドラマ。
主人公である初老の男フレッドは敬虔なクリスチャン。
しかしクリスチャンとして生きる自分にどこか窮屈さを感じていたりもする。
対する無口な中年男テオは事故で脳に障害を負っており、ほとんどしゃべることはなく、どこか従順な子供のよう。
事情を知らないフレッドは情け心からテオを自宅に泊めてやるんですが、それが彼を思わぬ状況へと追い詰める羽目になる・・・・ってのが、大筋。
やはりですね、圧倒的にうまかったのは、一体どういう方向に向かおうとしているのか、さっぱり読めぬシナリオ運びでしょうね。
つい人恋しさから、なにくれとなくテオの面倒を見てしまうフレッドを、世間はゲイなのか?と疑い始めるんです。
肝心のフレッド自身も、着るものがないからと勝手に亡き妻の服を着てしまうテオに、妻の幻影を見たりする。
挙句には「ゴースト」ばりに、二人でダンスを踊っちゃったりもする。
気の毒だからと世話をしているはずが、いつのまにかテオに執着してる自分を発見したりもして、フレッドはひどくあわてます。
で、それ以上にあわてるのが見てる側だったりもするわけで。
え?これ、初老の男のゲイへの目覚めを描いた作品なのか?と。
後半の展開なんて、オッサンがオッサン同士でオッサンの取り合いかよ!みたいな、三角関係っぽいくだりもあったりなどして。
いや、私はけっこうあせりましたね。
これ、このままの流れでキスシーンとかあったらどうしよう、と。
悪いけど正視できねえよ!って。
というか、一体何をどうしたいんだ、と。
特に夜の教会のシーンなんて、もう完全に狂ってます。
不思議なユーモアのある作品ではあるんですが、さすがにこれはユーモアの範疇を超えて飛ばしすぎだろうと。
笑いの感情が湧きあがる以前に不気味すぎるわ!と辟易。
ところが、です。
ラスト数分のエンディング、ここで監督は、それまでの物語の流れをすべて意味あるものとして、見事一点に集約させます。
終盤までの不可解極まりないアレコレが、かちり、と音をたてて1枚の絵になる。
膝をうつ、なんてもんじゃありません。
鮮やか、とはまさにこのこと。
すべてはここにつながるための壮大な前フリだったのか、と涙腺決壊。
いやもう、これ号泣です。
全てのマイノリティに、そしてそれを理解しない頑迷なファンダメンタリストに見てほしい1本ですね。
文句なし傑作。
変に心優しいだけじゃないし、ペシミスティックに冷徹すぎるわけでもない、そのバランス感覚のよさも素晴らしい。
こう言う形で、あっ、と言わされる映画もあるんだ、と監督の才覚に脱帽です。