スペイン 2009
監督 アレハンドロ・アメナーバル
脚本 アレハンドロ・アメナーバル、マテオ・ヒル

紀元前4世紀末、エジプトに実在した女性天文学者であり哲学者であるヒュパティアの生涯を描いた歴史大作。
美術やセットに対するこだわりは相当なものがあるな、とは思いました。
もちろん私は当時の街の風景なんて知る由もないんですが、なんといいますか、描き込みの濃さが半端じゃなんですね。
そこはもう別に映さなくてもいいだろ、と思われるようなところまで手を抜くことなく作り込んであるというか。
これ、ちゃんと文献をあさって下調べしてないと出来ないことだと思うんです。
史劇としての器がしっかりしてる、とは思った。
ですんでその世界観に入り込みやすい、というのはありましたね。
興味深かったのは、カトリックが大半を占めるスペインの作品なのに、キリスト教の横暴、宗教の愚昧さを徹底的に皮肉る内容だったこと。
プロデューサーは相当な肝っ玉野郎だと思います。
普通は怖くてできないだろうと思うんですが、公開されるや否や本国で大ヒット、というのだからよくわからんぞスペイン人。
映画は映画、現実の信仰は信仰ときちんと区別して考えることが出来る国民性なんでしょうか。
だとしたら本当に大人の国だ、と感心する次第。
まあ、それはともかくとして。
ちょっと残念だったのは駆け足で主人公の生涯を追ったような印象が残ったこと、ですかね。
動乱の時代に、男性に頼ることもなく、学問のみに全てを捧げた主人公ヒュパティアの生き様はまさに学究の徒と呼べる男前なもので、そこに感銘を受けた、というのはもちろんあったんですが、どことなく史実をなぞっただけの絵解きになってしまったように感じる部分も若干あり。
はっきりいって2時間で収まるようなヴォリュームじゃないんです。
それを無理矢理コンパクトにまとめたものだから、どうしたって各キャラクターの「人となり」を描くのが浅薄になる。
そりゃね、ローマ時代に地動説に気づいた人が居た、という事実は知りませんでしたし、古代エジプトの文化に映像を通して触れるおもしろさはもちろんあったんですが、ドラマとして見る分には心揺さぶられるものは少なかった、ってのが正直なところ。
なので最後に待ち受ける悲劇も唐突すぎてどこか感情がついてこないんですね。
緻密に作られた作品だとは思いますが、ハズレなしのアメナーバル監督のフィルモグラフィーにおいて、唯一かゆいところに微妙に手が届かなかったか、と思えたりもする一作。