1971年初出 平田弘史
リイド社SPコミックス

それが事実なのか、創作なのかはわからないんですが、戦国時代、敵に追われ窮地に陥った武士が己の首を敵の言い値で売り、その場で手形を渡し死を免れる因習があったらしいんですね。
その後、手形を持って本人に首代金の支払いを迫ることを職業とする借金回収人を主役としたのが本作。
なんとも独特なプロットです。
時代劇に滅茶苦茶詳しいわけではないんですが、私の知る限り、似たような題材の作品、ってひとつもないように思います。
で、これがもう滅法やたらと面白いんですね。
首代金を支払うことを約束した本人は、自分の死がかかっているので戦場では法外な要求も飲むんですが、喉元過ぎればなんとやらで、いざ現状の安泰の内に大金を支払え、と迫られれば、恥や外聞もあり、いかにそれを逃れようかと懸命に画策するわけです。
なんせ首代引受人は借金が支払えなければかわりにその首いただく、と迫るわけですから。
まず手形を発した本人を特定することから始まり、次に交渉、それが決裂、ないしは謀略が露見した場合はたとえ藩主であろうと剣戟も辞さぬ、とした物語の展開は、探偵ものとチャンバラ・アクションが融合したような斬新さがあり、金にまつわる人間のあさましさがそこにドラマを加味。
残虐であることもいとわぬ作者らしさはそのままに、物語にエンターティメント性が付加されたような印象を私は受けました。
首代引受人の素顔を一切描写せず、常に編み笠の奧に隠したままにしたのも秀逸。
どっちかというとあまり誇れる仕事ではないと思われるんですが、それが下世話にならずどこかミステリアスな雰囲気を漂わせているのは、作劇のうまさと、武芸の達人的性格を首代引受人が秘めているからでしょうね。
これは平田弘史唯一の映像になりうる作品ではないか、と私は思うんですが、残念ながら6話を掲載したところで雑誌が休刊。
ああもう、本当にもったいない。
もっともっと読みたかった。
比較的従来の作品よりも親しみやすい、と言う意味で、初期の代表作と呼んでも良いのではないでしょうか。
初心者はここからはいるのが正解かも知れません。
私は大好きなシリーズですね。