大島弓子 あすかコミックス6冊

1987年初出 秋日子かく語りき
<収録短編>秋日子かく語りき/ロングロングケーキ/庭はみどり川はブルー/水の中はティッシュペーパー

意外にも全編がなにやらSFっぽいテイストの香る短編集。
一番完成度の高いのはやはり表題作「秋日子かく語りき」か。
「転校生」みたいなネタと言ってしまえばそれまでなんですが、鮮やかなエンディングに優れた映画を見たような満足感がありました。
 他の三編に関してはそそられはするものの、どれもいささかツメが甘い感じ。
「水の中はティッシュペーパー」は山岸凉子が描きそうな題材ですが、同じネタでも大島さんが描くとここまで違うんだなあ、と。
佳作ですかね。
しかしこの頃の大島さんの「すこし不思議な感じのラブロマンス」はメディアを問わず、現在に至るまであちこちで流用されてるなあ、とつくづく思います。
そう考えるとやっぱりすごいですよね。

1988年初出 つるばらつるばら
<収録短編>夏の夜の獏/山羊の羊の駱駝の/つるばらつるばら

綿の国星の手法を応用した「夏の夜の獏」が、自家薬籠中の一作とはいえ、実によくできてると思います。
手の内で転がすだけでなく、きちんとヤマがあってオチがあるんですね。
やりなれた方法論に依存してないのが素晴らしい、と思う。
エンディングもお見事。
こりゃ名編と思う次第。
 「つるばらつるばら」は性同一性障害に悩む少年の生涯を追った一大ラブロマンス。
ああ大島さんらしいなあ、と思う。
ここにも全肯定のハッピーエンドがある。
「山羊の羊の駱駝の」はやや混乱気味か。
このあたりが短編の名手としての大島さんのピークかと思います。
以降、主にエッセイ漫画を描く方向にシフト。
とりあえずファンならおさえておくべき一冊でしょう。

1988~89年初出 ダイエット
<収録短編>月の大通り/アンブラッセ/ダイエット

「月の大通り」「アンブラッセ」は大島さんの飼い猫サバとの日常を描いたエッセイ。
これが後の「グーグーだって猫である」につながっていくのでしょうが、本作のサバは綿の国星よろしく擬人化されててファンタジー風です。
 創作は「ダイエット」のみ。
テーマは拒食と過食なんですが、予想外な展開と、飄々とした雰囲気の中にも深層心理に切り込む鋭い描写があって、なかなか興味深い一品。
この頃からだんだん創作が少なくなってきます。

1989~90年初出 毎日が夏休み
<収録短編>毎日が夏休み/サバの秋の夜長/わたしの屋根に雪つもりつ

表題作「毎日が夏休み」がご都合主義的ながら小気味の良い短編。
こんなのありえねえ、と思いつつも大島さんのストーリーテリングのうまさに酔わされますね。
他2編は例によってエッセイ。
猫と人間、一対一の生活が不思議と味わい深いです。
猫を題材にしたエッセイ漫画の先駆け、と言えるかもしれません。

1990~91年初出 すばらしき昼食
<収録短編>サバの夏が来た/恋はニュートンのリンゴ/すばらしき昼食

創作は「恋はニュートンのリンゴ」のみ。
「夏の夜の獏」と「裏庭の柵をこえて」を掛け合わせたような作品ですね。
 90年代の作品ゆえか、ゆがんだ世相とマイノリティの悲劇をしみじみ感じます。
秀作。
他2編は例によって飼い猫との日々を綴ったエッセイ漫画。
うーん、エッセイはエッセイだけでまとめてほしい、と思ったりも。
まあ、いいんですが。

1992~93初出 大きな耳と長いしっぽ
<収録短編>大きな耳と長いしっぽ/サバの天国と地獄/ジィジィ

創作は「ジィジィ」のみ。
大島さんの描く田園の終末、ってな感じの物語なんですが、オチがよろしくない。
こりゃ、やっちゃあいかんタイプのオチだと思う次第。
この頃になってくると、創作より大島さんのエッセイをみんな楽しみにしていたのでは、という気もしなくはありません。
ちなみに私が大島さんの本を熱心にチェックしたのはこれが最後。
エッセイも良いんですが、やはり私は彼女の紡ぐどこにもない物語にのめり込んだファンだったので。
振り返ってみれば、大島さんが優れた短編を多く発表していたのは意外と短い期間だったようにも思います。
まあその短い期間で少女漫画の世界に唯一無二の足跡を残したのだから、なにも問題はないわけですが。
80年代初期から後半までが黄金期だったように私は思いますね。

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