アメリカ 1960
監督 スタンリー・キューブリック
原作 ハワード・ファスト

紀元前70年ローマ時代、奴隷である身分からの解放を訴え、帝国に対して反乱をおこしたスパルタカスの闘争の日々を描いた史劇。
あ、キューブリックもこんな作品撮るんだ、とちょっと意外でしたね。
私のイメージとしてはキューブリックって、もっとアイロニカルで余人の及ばない天才肌な画を撮る人、だったんですが、この一作に限ってはひどく真っ当。
何が真っ当かって、普通に歴史大作な感動巨編である点。
うまく言えないんですがなんだか湿度が高い。
もっと冷徹な目線で事の本質をざっくり切り取って、それをミステリアスに盛りつけるのが監督か、と思っていたんですが、妙にベタな演出があったり、ヒロイズムに色気を見せていたりと、どこからしくない感じ。
調べてみたところによると、撮影途中で監督の交代劇があったり、主演、製作総指揮のカーク・ダグラスとの衝突があったりと、色々揉めた作品だとか。
キューブリック本人は自分の撮った映画ではない、と死ぬまで認めてなかったらしいです。
まあ、そこまで意固地ならなくても、とは思いますが、そういう話を後から知ると、ああなるほど、と解せる部分はあったりしますね。
ただ、だからといって出来が悪い、と言うわけでは決してなくて、退屈することなしに最後まで問題なく楽しめてしまうのがこの作品の凄いところ。
史実を忠実になぞったであろうストーリーの意外性のなさや、生活感のない反乱軍の逃走、現代劇かといいたくなるような熱愛シーン、合戦シーンの迫力のなさなど、つっこみどころは色々あったりするんですけどね、それら全部ひっくるめて差し引いてもエンターティメントとして成立させる分には不思議に遜色なかったりするんです、これが。
構成がちゃんとしてる、とでもいうか。
きちんと見せ場は押さえてる。
唯一意外とあっけない、と思ったのはエンディングなんですが、これは熱血路線を譲らないダグラスに対するささやかな抵抗だったのかもしれません。
問題作、といえば問題作なのかもしれませんが職業監督に徹してまでもこれだけのものを作り上げるキューブリックに私はどこか感心しましたね。
策謀をめぐらすローマ帝国の貴族達の駆け引き、足の引っ張り合いを描写した場面が個人的にはお気に入り。
史劇なんて普段は全く見ないんでその分新鮮だったのかもしれませんが、決して悪くない、と思います。
後に同題材がテレビドラマ化されたのも納得の、わかりやすいドラマチックさは評価されていいのではないでしょうか。