夜叉鴉

1993年初出 萩野真
集英社ヤングジャンプコミックス 全10巻

すべての作品を読んでいるわけではありませんが、荻野真のオカルトSFの中では一番出来が良い気がしますね。

序盤は正直たいしたことないんです。

晴らせぬ恨みを夜叉鴉が代って晴らしましょう、ってな感じで、オカルト必殺仕事人か、ゴーストハンターか、ってな感じ。

相変わらずキャラの人物造形もワンパターンで、主人公、また孔雀王みたいな性格設定かよ・・と、うんざりした、と言うのもありましたし。

物語が加速していくのは中盤以降。

生と死の境を地続きにする、という死者の謀略を阻止せんと、明治時代にタイムスリップ、なんと実在の人物である宮沢賢治や北一輝が重要な役割で登場してくるんです。

飛躍しすぎなのか、奇抜な発想なのか、判じがたいところではあるんですが、どちらにせよ驚かされたのは確か。

序盤は一体なんだったんだよ、と言いたくなる連続S字カーブなシナリオ進行ではあるんですが、要はついていくのが大変な道筋も、いずれは絶景の山頂へと導いてくれるのであれば文句はないわけで。

荻野真はそこがあんまり上手じゃなかった、と思うんです。

大抵途中で振り落とされて、気づいてみればまるで目的地とは違う地平に着陸、と言うのが多かったように思う。

終盤、ストーリーはカタストロフ後ともいいがたい、とんでもない世界を構築します。

強烈な矛盾を抱えているような気もしなくはないんですが、誰もこんな宇宙をこれまで描いていないのは間違いない。

そしてエンディング。

いや、素直に驚かされましたね。

まさかここであの人物が登場するとは、と感嘆。

夜叉鴉はどうなるのか、その後を描いたラストシーンも仄かな希望の灯るささやかなドラマがありました。

用意した資料やアイディアを全部詰め込んでSF伝奇アクションの大伽藍を作り上げるのが作者の流儀なのだとするなら、本作は、もっとも構築性を損なわずに建築された例ではないか、と思います。

話があっちこっちに飛びすぎ、と言う人もいるかと思いますが、その振り幅の強烈さこそが持ち味でしょうし、それらすべてを束ねる手腕こそが大事だと私は思うんですね。

今回は手綱を緩ませることなくコントロールしてる印象を受けた。

これで意味なくエロくなけりゃもっといいんですが・・・・。

まあそこは青年誌でこの手の作品を連載する以上、仕方ないのかもしれませんけどね。

孔雀王より私はこの作品の方が好きですね。

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