2024 日本
監督、脚本 石井裕也

テーマは興味深いのに、さっぱりテーマを深堀りしてくれない一作
仮想空間上に任意の人物を実像化させる技術(ヴァーチャル・フィギュア)でもって、亡くなった自分の母を蘇らせ、聞きそびれた『大切な話』を聞き出そうとする主人公を描いた少し未来のSFドラマ。
近未来SFの意匠、という意味では目新しいものはなにもないです。
ま、これだけAIが発達すればヴァーチャル・フィギュアだろうがミーガンだろうが実現可能になるのはそう遠い話じゃなかろう、と。
リアルアバターという職業が、今で言うウーバーイーツのように、仕事がない人間の受け皿になってる設定は面白かったですが、あんまり上手じゃないな、と私が思ったのは描かれてる世界がさっぱり未来な風に見えなかったこと。
普通に令和やないかい、と。
つまりは世界観の構築が甘い。
主人公の周りだけじゃなくてね、背景なり、モブキャラなりに『今ではない違和感』を演出しなきゃならなかった、と思うんですね。
それでこそリアルアバターなり、失敗した人間が浮き上がれない超格差社会のリアルが現実味をもって我々に迫ってきた、と思うんです。
ま、こういう監督、少なからずいます。
どう頑張っても尤もらしくSFっぽい絵を撮れない人って一定数いて。
ただまあ石井裕也監督のうまさって、そういうところじゃないと思うんで、そこはもう目をつぶるしかないんじゃないか、と私は思ってて。
それを踏まえた上で再度、まっさらな目で作品と対峙して、浮かび上がってくる問題がいくつかあるのがこの物語の、真なる難点であって。
とりあえず母の『大切な話』を聞く、という主題をほったらかしにして複数のエピソードを同時に追いすぎ、ですね、この映画。
もうね、次から次へとお話が脱線していくんですよ。
主人公の過去の暴力事件を追ったかと思えば、同居人が主人公の初恋の人と同一人物なのでは?という疑念が生じ始めるわ、主人公が仕事で辛酸をなめつくして無職になったかと思えば、幼馴染は犯罪犯すわ、同居人と恋仲になりそうになるわ、急に主人公がネットでバズって正義の味方になるわ、で、ほんとね、オカンの仮想人格の話はどうなったんだってな混雑ぶりでね。
いや、わかりますよ、ただ愚直に、真面目に生きてきた主人公が、デジタル化した社会に痛めつけられていく様子を世界丸ごと描きたかったんでしょうけど、それを2時間でやるのはやっぱり無理だと思うんです。
早い話が詰め込み過ぎ。
特にラストシーンなんて、描き切れなくてとってつけたような印象しか残らないですし。
もう少し、ブラッシュアップしてほしかったですねえ。
石井監督、心の機微を細やかに描くドラマを演出するのはやたらうまいんで、仮想人格の母親に焦点絞ってじっくりとその変化(AIの成長)を追ってほしかった、と思いますね。
AIに学習で母親の真意を語らせることができるのか?という興味深い命題がものすごく簡単に扱われてるのがどうにも。
田中裕子が実在の母親とAIの母親を演じ分ける、という神業を披露してただけに残念。
決してつまらなかったわけではないんですが、終わってみれば「えーと、なんだったんだっけ?結局?」ってなっちゃう一作。
もったいなかった、の一言ですね。
ねじレート 65/100

