彼女がその名を知らない鳥たち

2017 日本
監督 白石和彌
脚本 浅野妙子

彼女がその名を知らない鳥たち

恐ろしく献身的な夫と、自由奔放に暮らす妻の秘められた過去をたどるサスペンス。

全く予備知識なしで見たんで、中盤ぐらいまでどこへ行こうとしてるのか、全くわからなかった、というのが本音。

ぶっちゃけ立ち上がりは遅かったように思いますね。

序盤30分、特に何も起こらないまま主要キャラやその関係性の描写に終始する、って感じでしたから。

でね、これがねえ、もうほんとイライラさせられるばかりでね。

というのもヒロインである、蒼井優演じる十和子がマジでクソ女でして。

てめえで一円も稼がずに遊び暮らしながら、家事することもなく、昔の男にいまだ未練なモンスタークレーマーという、世が世なら市中引き回しの上磔獄門にされてたようなクズで。

1ミリも共感できんばかりか、頼むから誰かこいつを張り倒してくれ、と懇願したくなるような人物なんですね。

そんな十和子にひたすら献身的で、罵倒されようが物投げられようがただただ尽くし抜くのが夫の陣治。

いやいやどんなドMやねん、と。

いったいなんなんだ、この関係性は?と。

そんな昭和の家父長制が逆転したかのような変な夫婦の日常が、見てて楽しいはずもなくて。

しかも挙句には十和子、陣治にバレてるのを知りながら平然と浮気するんです。

むちゃくちゃですがな、って。

なんなの、こいつら、と観ててぽかーん、ですよ。

もう途中で観るのをやめようかと思ったりもしたんですが(理解できない嫌な奴だらけすぎて)、そんな萎えた気持ちを強引に引き戻してきたのが中盤以降の展開。

陣治、人殺してるんじゃないか?ってな疑惑が湧いてくるんです。

するとまあ、これ、不思議なもんで、急にね、奴隷のように卑屈な陣治が怖く見えてくるんですよね。

えっ、ひょっとしてこれ、サイコパスの話なのか?と俄然前のめり。

そこからはもう怒涛。

疑惑が疑惑を産んで、緊張感も俄然高まってくる。

特に終盤、陣治の告白のあと、二人が食卓を囲むシーンがあるんですが、この絵面がなんとも強烈に不穏で。

なんで平然と飯食ってんの?やばすぎるわ、この夫婦、どうなるの?また平然と日常に?とおびえてたら、そこからさらなるどんでん返しへ、ときた。

いやもう、見事の一言。

なんとなくそうなんじゃないかな、とは思ってました。

思ってたけど、真相が、陣治の過剰な献身の理由にもなっていたとは予測がつかなかった。

ああ、そうか陣治は十和子を守るために、ひたすら気を配っていたんだ、と膝を打つ。

それにしたってこうも『見返りを求めぬ愛情』があるだろうか、と。

そして迎えたエンディング、痛烈です。

あんなことされちゃ、もう生きるしかない。

生きて生きて生き抜くしかない。

サイコパスどころか、すさまじい愛の物語じゃないか、って。

前半の壮大な伏線を鮮やかに回収していく圧巻のエンディングでしたね。

しかしラスト数十分でここまですべての色を違えてみせた作品も珍しいと思います。

タイトルにかかるラスシーンもいい。

蒼井優の演技がまた凄絶。

この人はもう、魔性だな、と思った。

演技のふり幅が広すぎる。

阿部サダヲもうますぎて見直しました。

いやー白石監督、こんな作品撮ってたんだ、と驚きでしたね。

できすぎだな、と言いたくなるような力作だと思います。

見て損なし。

ねじレート 90/100

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