2008年初出 松田洋子
エンターブレインビームコミックス 全1巻

毒親の元で育ち、誰からも顧みられなかった青年が、いかなる妖術か、犬と化けて憧れの美少女と暮らすようになるお話。
どんなファンタジーやねん!というツッコミが一斉に聞こえてきそうな奇抜さだったりしますが、これが意外に読ませる内容だったりするんで驚き。
しかも犬に化けた青年、噛みつけば人を犬に変える能力をなぜか備えていたりする。
さすがは『薫の秘話』(1995~)で漫画マニアの話題をかっさらった松田洋子、初期設定からして普通じゃない。
よくまあこんなヘンテコなネタ思いつくなあ、って。
もちろん物語の根底には主人公の屈折した愛着障害が陰鬱に脈打ってたりするんですが、それを真正面から描いちゃうとしんどくなるからギャグでかわしていく、という手法は相変わらずながら秀逸で。
じゃりン子チエ(厳密にはチエと小鉄だけど)の関係性みたく少女と犬が描写されてるんですね。
美少女(相羽奈美)はもちろん犬が人間であったこと、今も人と同じ知能を有することを知らない。
犬(青年)はそれがもどかしくて仕方ない。
世間知らずで危なっかしい相羽奈美のために犬は毎回駆けずり回るんだけど、ペット以上になれぬままその功労は別の存在にいつもかっさらわれてしまうというのが鉄板のパターン。
少女と犬の認識のズレが面白いんですよね。
ただ本作、ホラー誌に掲載されていたせいもあってか、コメディながら毎話独特な暗さがあって。
登場するサブキャラが片っ端からゆがんだろくでなしなんです。
そりゃお前、犬に噛まれて犬になった方がいいわ(普通に読んでると意味わからんな)、ってなクズばかりが登場する。
そこがね、ちょっと読んでてしんどいかもしれないですね。
救いのない連中ばかりすぎてね。
そういう連中を軽妙なタッチで料理していくから面白いんじゃん、という意見もあるかとは思いますが。
とりあえず私がびっくりしたのは終盤の展開。
まさか犬神なんて代物が飛び出してくるとは思わなかった。
本気でホラーだったんだ、みたいな。
相羽奈美の親父の顛末も強烈。
これは救いなのか、それとも罰なのか、読んでて答えに窮するオチが待ち構えてて。
で、最後私が声を上げてツッコんだのが犬の行く末。
なにも解決しとらんやないかーい!と。
いやはやすげえ放り投げ方をするな、と。
この手厳しさこそがセカンドチャンスなのかもしれないですけどね、どうせなら犬も救ってあげてほしかった、と思う次第。
ま、ちょっと笑っちゃったんで、何も言えないかも、ですけど。
作者の稀有な個性が炸裂した一作だと思いますね。
この屈折ぶりがクセになる人は一定数存在するんじゃないでしょうか。

