2023年初出 浅野いにお
小学館ビッグスペリオールスペシャル 1~5巻

国家が人権カードを発行し、人を人権者と非人権者に区別する世界で生き抜く女殺し屋、ムジナのウブメを描いたSFアクション。
少子高齢化で疲弊していく日本が選んだ『あるかもしれない未来図』という意味では、この作品の物語設定、うすら寒く真に迫るものだった気がしますね。
全員の面倒を見ることができないから、合法的に切り捨てられる誰かを作ろう、とする施政者の発想は、体面さえ整えば可能なんだ、と読み手に納得させられるだけの説得力があって。
またそんなムジナ(非人権者)からインフルエンサーが登場する、という展開も、いかにもありそうでつくづく感心。
浅野いにおの観察眼というか社会に向けられた視線は、ひどく冷静で理知的だと思いましたね。
ただね、だからといってムジナが殺し屋家業に身をやつす、ってのはちょっとエンタメがすぎやしないか、と思わなくもなくて。
作中ではCBと呼ばれる薬物への適性が殺し屋としての才能を引き出す、みたいな説明がなされてますが、単純に考えて身体能力の向上だけで殺し屋が務まるわけないよね、って話で。
そもそもムジナが結構な割合で殺し屋に転業してたら公安が黙ってない、と思うんですよ。
いかにムジナは人でないから罪に問われない、とはいえ社会の安寧を公に乱しちゃってるわけだから国家がそれを黙って静観するはずがない。
あと、なぜかムジナのウブメが見知らぬ少女とオッサンで疑似家族を維持しようとするシナリオ進行もちょっと疑問。
なしくずし的にそうなった、ないしはそうせざる得ない内面の変化があった、ってわけじゃなく、偶然居合わせたことで関係がスタートしてるんですよね。
いや、最初は偶然だったが、いつしかその関係性が大事なった、ってな案配の作劇を否定するわけじゃないんですよ、そういうのもあるだろうとは思うんですけど、それを読者に悟らせる描写が欠落しちゃってるんですよね。
ええっ、いつのまにそんな是枝映画みたいな有様に??ってな感じですよ。
それとね、やっぱりね、女殺し屋のコンビと言えば世間的にはどうしたってベイビーわるきゅーれ(2021)であってね、漫画だけど後発なことが焼き直しっぽい印象を与えてしまうことは否めなくて。
ベイビーわるきゅーれは緊張と弛緩を上手にコントロールして非現実感を塗りつぶしてましたが、こちらはシリアスでシビアなだけに、女殺し屋というキャラがどうしたって浮いて見えるんですよね。
なんかね、作者はもうずっと女子高生というか女の子にとらわれてるなあ・・などと思ったりもして。
いっそのこと高橋慶太郎ぐらい吹っ切れてたらこっちも読んでて楽だったのかもしれないんですけど、浅野いにお、真面目だからなあ・・・。
少女がぶっ壊れて死んでいくシークエンスとか、こだわりまくって描いてるはわかるんですけど、なんつーか、読んでてしんどい。
ありていに言っちゃうなら暗い。
でも残念ながらその暗さこそが作者の武器だったりもするんで困ったものだ。
ま、これは感想というより、単に私の感覚なのかもしれないんですけどね。
結論、設定や世界観は面白いが、女殺し屋のキャラが物語から乖離してるように思えてあんまりのめりこめない、以上。
物語がどこへ向かおうとしてるのか、いまいちはっきりしないのも難点。
ここ数年の作者の露悪的な作風をどう評価するか?にもよるのかもしれませんが、私はもういいかな。

